第92話 重すぎる冠
即位から五日。
地方都市ルグランで暴動未遂が発生した。
原因は穀物価格。
備蓄放出は王都中心。
地方への供給は遅れている。
報告書が王の机に積まれる。
「地方優先に切り替えれば、王都が不安定になる」
財務卿の言葉。
「王都を守れば、地方が反発する」
レオンが淡々と整理する。
どちらを守るか。
新王は地図を見る。
点と数字。
だがその先には人がいる。
「王都を優先する」
低い声。
「物流拠点は王都だ」
「崩れれば全域に波及する」
合理。
だが地方は切り捨てられる。
決裁の署名が震えないよう、ゆっくりと書く。
夜。
再び眠れない。
私室に呼ばれる。
「私は切ったな」
静かな声。
「地方を」
リリアーナは否定しない。
「全体を守るための選択です」
「だが、あの町の者はそう思わぬ」
沈黙。
王は初めて痛みを自覚している。
「私は間違えたか」
「最善はありません」
彼女は正面から言う。
「最小の損失を選んだだけです」
王は目を閉じる。
「王は好かれぬな」
「はい」
「だが尊敬はされます」
短い沈黙。
その時、侍従が告げる。
「アルノー・ベルトラン卿が拝謁を求めています」
王は応じる。
若い貴族は一礼し、直言する。
「王都優先は理解します」
「だが地方軽視が続けば、王権は支持を失う」
理知的な声。
「評議会に地方代表権を強化すべきです」
王権制限提案。
新王は静かに聞く。
「王が間違えたときの歯止めが必要です」
正論。
リリアーナが口を開く。
「制度は既にあります」
「ですが最終決裁は王」
「責任の所在を曖昧にしてはなりません」
アルノーは彼女を見る。
「あなたは王を守る」
「国家を守ります」
視線がぶつかる。
思想対立。
王は二人を見る。
「私は間違う」
突然の言葉。
室内が静まる。
「だが責任は私が負う」
「評議会は助言せよ」
「だが決断は私だ」
明確。
アルノーは一礼する。
「覚悟は理解しました」
去っていく。
扉が閉まる。
王は深く息を吐く。
「冠は重いな」
「はい」
「だが捨てぬ」
視線が交わる。
「そなたがいる」
その一言は、昨日よりも強い。
リリアーナの胸が熱を帯びる。
王は孤独だ。
だが完全ではない。
地方は揺れ。
市場は半信半疑。
北方は様子見。
王は、初めて自分の重さを知った。
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