第91話 即位後の静寂
即位から三日。
王都は、静かだった。
歓声もない。
暴動もない。
ただ、静かだ。
それは安定ではない。
様子見の静寂。
北方軍は防衛線から一里後退したまま。
完全撤退ではない。
南方連盟は凍結の一部を解除。
だが全面ではない。
市場は息をひそめている。
円卓室。
新王は書類に目を落としている。
署名は増えた。
決裁は重い。
「地方穀倉地帯の価格調整案」
「港湾税率暫定修正」
「軍需備蓄再配置」
どれも正解がない。
レオンが静かに言う。
「市場は半信半疑だ」
「当然だ」
新王は淡々と答える。
「信頼は即位では生まれない」
その声に、以前の揺らぎはない。
だが。
夜。
王の私室。
灯りは消えていない。
リリアーナが呼ばれる。
机の上には、未署名の書類。
「眠れぬ」
新王は正直に言う。
「即位前よりも、静かだ」
リリアーナは窓の外を見る。
王都は穏やかだ。
だが穏やかすぎる。
「皆、見ています」
「私をか」
「王を、です」
沈黙。
新王は小さく息を吐く。
「私は正しいか」
王の問い。
制度ではなく、感情。
「間違えるかもしれません」
彼女は答える。
「だが、修正できる体制があります」
「制度か」
「はい」
新王は静かに笑う。
「王は孤独だな」
「はい」
否定しない。
「だが、完全ではありません」
視線が交わる。
「私はいます」
その言葉は静かだが、重い。
新王の表情がわずかに緩む。
「そなたがいるなら」
「私は崩れぬ」
低い声。
溺愛ではない。
依存でもない。
支柱。
翌朝。
城下で王権批判の小冊子が配られる。
「評議制こそ安定」
署名は若手貴族。
アルノー・ベルトランの名。
制度の敵ではない。
思想の対抗軸。
王都は静か。
だが水面下で動いている。
即位は終わりではない。
王の資格は、これから試される。
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