第89話 責任の所在(再)
即位前夜。
王宮は静まり返っていた。
だが静寂は平穏ではない。
北方軍は防衛線手前で停止。
南方連盟は凍結解除を保留。
城下は不安を抱えたまま。
期限まで五日。
即位は三日後。
だが。
夜半、最後の書簡が届く。
エルヴァーン・ロシュの名。
「王位確定前に軍の一部撤収を示せ」
露骨な牽制。
撤収=弱さ。
拒否=緊張維持。
円卓室に緊急招集。
王太子は書簡を静かに読む。
「撤収はしない」
即答。
第二王子が目を細める。
「牽制は続く」
「続けば続ける」
王太子の声は低い。
「王が未確定でも、国家は未確定ではない」
宣言。
だが空気は重い。
レオンが問う。
「責任は誰が負う」
沈黙。
王太子が言う。
「私だ」
短い。
だが重い。
「まだ王ではない」
「だが三日後に王になる」
「今の判断も、その責任も私が引き受ける」
円卓室が静まる。
逃げはない。
第二王子は静かに言う。
「ならば私は軍を動かす準備を整える」
役割は定まった。
レオンは低く言う。
「私は財務と市場を押さえる」
そして。
視線がリリアーナへ向く。
制度の設計者。
彼女は、静かに立つ。
「責任の所在は明確です」
声は震えない。
「王が決断し」
「制度が支える」
セラフィナが問う。
「あなたは、誰を支える」
もう逃げられない。
リリアーナは王太子を見る。
かつて未熟だった男。
失敗を晒し、成長し、覚悟を示した。
完璧ではない。
だが逃げない。
「王太子殿下を支えます」
明言。
空気が変わる。
第二王子は小さく頷く。
レオンは目を閉じる。
セラフィナは静かに言う。
「制度は人を選んだのではない」
「人が制度を引き受けた」
その通りだ。
夜明け前。
リリアーナは一人、回廊を歩く。
迷いは消えていない。
だが覚悟はある。
制度は万能ではない。
王も万能ではない。
だが。
責任を引き受ける者が王になる。
そして制度は、その責任を持続させる。
北方は待つ。
市場は様子を見る。
三日後。
王が生まれる。
責任の所在は、ついに定まった。
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