第87話 均衡の崩れ目
期限まで九日。
南方交易都市連盟が、第二段階凍結を発動した。
港湾拡張融資の停止。
軍需資材の前払い契約の一部保留。
象徴ではない。
実害。
市場は即座に反応した。
穀物価格はさらに上昇。
銀貨の流通が滞る。
城下で再び衝突。
「王を決めろ」
叫びは怒号に変わる。
一方、北方軍は防衛線まで一里に接近。
演習の名目は残っている。
だが、圧は露骨だ。
円卓室。
空気は重い。
財務卿が言う。
「このままでは国家信用が落ちる」
軍務卿が続く。
「北方は本気だ」
第二王子は静かに立つ。
「軍を前進させる」
「抑止を強める」
強い案。
王太子は地図を見つめる。
「前進すれば偶発が起きる」
「起きぬ保証はない」
レオンが低く言う。
「だが退けば弱い」
完全な正解はない。
セラフィナが整理する。
「即位を急げば市場は一部落ち着く」
「だが北方は別」
両面圧。
リリアーナは立っている。
心がざわついている。
均衡は守ってきた。
だが今、均衡そのものが不安材料になっている。
王太子が静かに言う。
「九日待てぬ」
全員の視線が集まる。
「即位宣言を前倒しする」
空気が止まる。
「三日以内に」
第二王子が目を細める。
「基準は未完だ」
「未完でもやる」
王太子の声は低いが明確。
レオンが問う。
「覚悟はあるか」
短い沈黙。
「ある」
迷いはない。
だが。
リリアーナの胸が締まる。
即位前倒し。
市場は落ち着く可能性が高い。
だが制度は未完。
急げば、設計思想が歪む。
会議後。
回廊。
王太子が立ち止まる。
「私は、逃げていないか」
小さな声。
初めての弱さ。
リリアーナは答えられない。
これは責任か。
外圧への屈服か。
「国家を守るなら、即位は合理です」
そう言うしかない。
だが胸の奥が重い。
第二王子は遠くから見ている。
レオンは静かに言う。
「均衡は終わる」
その通りだった。
北方は動き。
市場は凍り。
民意は荒れ。
王太子は即位を決断した。
均衡は、静かに崩れ始めている。
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