第76話 数字にできないもの
継承評議会第三回。
議題は「民意反映の整理」。
直接投票は行わない。
だが公開討議の反応、意見書、商会・学院の声明は記録される。
数字化は限定的。
だが傾向は見える。
セラフィナが告げる。
「本日は参考指標の共有のみ」
記録官が報告する。
王太子――貴族層の安定支持。
第二王子――若年騎士団・北方帰還者支持。
レオン――商会、学院、都市行政層支持。
ここまでは想定内。
だが。
「新たな傾向があります」
記録官の声がわずかに揺れる。
「城下の市民層から、非公式署名が提出されました」
室内がざわつく。
「内容は」
「“公開監査を継続する王を望む”」
個人名ではない。
理念への支持。
だが。
実質的には――レオン支持と解釈可能。
なぜなら。
公開監査を最も自然に体現しているのは彼だから。
王太子は制度を受け入れた。
だが発案者ではない。
第二王子は制限論を口にした。
レオンは最も制度適合的。
マルコが静かに言う。
「理念支持は強い」
「人物支持より長持ちする」
大公が眉を寄せる。
「市民層の声をどこまで扱う」
ここが難所。
血統国家。
直接民意は前例が薄い。
セラフィナは視線を巡らせる。
「参考値とする」
「だが基準には入れない」
安定策。
だが。
城下では熱が上がっていた。
酒場。
市場。
学院。
「公開監査を止めるな」
「説明してくれる王がいい」
名は出ない。
だが方向は見える。
制度設計監査室。
「これは危険です」
ルークが言う。
「はい」
リリアーナは静かに頷く。
「理念が人物に結びつく」
制度が、誰かの支持に変わる。
それは均衡を崩す。
夜。
レオンが訪れる。
「城下が騒がしい」
「はい」
「私は何もしていない」
「知っています」
沈黙。
「これはあなたの制度だ」
「違います」
即答。
「制度は王太子殿下の承認で成立しました」
だが事実は単純ではない。
レオンは低く言う。
「もし私が外れれば」
「理念支持はどこへ向かう」
重い問い。
王太子へか。
第二王子へか。
それとも不満へか。
「理念は消えません」
リリアーナは答える。
「人が外れても残ります」
「だが人が体現しなければ、空洞化する」
沈黙。
その通りだ。
翌日。
王太子が城下の非公式署名を知る。
目を細める。
「……私は支持されていないか」
第二王子は穏やかに言う。
「兄上は安定だ」
「彼は理念だ」
比較は残酷。
王太子は小さく息を吐く。
「ならば私は、両方になる」
呟きは小さい。
だが決意はある。
継承評議会は数字を扱う。
だが。
数字にできないものが、動き始めた。
理念。
信頼。
空気。
制度は強い。
だが人もまた強い。
揺らぎは、確実に広がっている。
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