第69話 帰還の報せ
北門に旗が上がったのは、正午過ぎだった。
白地に蒼の双頭鷲。
王家直系の紋章。
伝令が王宮へ駆け込む。
――第二王子殿下、帰還。
回廊の空気が止まる。
噂ではない。
事実。
王太子は報告を受け、わずかに目を細めた。
「予定より早いな」
「はい。北方諸侯との訓練を切り上げられたとのこと」
理由は明言されない。
だが時期が絶妙すぎる。
国王静養中。
摂政案浮上。
公開監査開始。
そして軍部の揺らぎ。
夕刻。
大広間に姿を現した第二王子は、予想より若々しかった。
銀灰の髪。
穏やかな笑み。
だが目は鋭い。
「兄上」
軽く頭を下げる。
「ご無沙汰しております」
形式は完璧。
敵意はない。
だが距離もない。
王太子は頷く。
「無事で何よりだ」
視線が交わる。
短い。
だが火花は確かにあった。
その場にいたレオンは、沈黙する。
軍部の一部が小さくざわつく。
“北方帰りの王子”。
戦略知識。
若さ。
柔軟性。
新しい選択肢。
一方。
制度設計監査室。
「四角になりますね」
ルークが呟く。
王太子。
レオン。
第二王子。
そして――。
「私は候補ではありません」
リリアーナは即答する。
だが。
国家設計の中心にいるのは事実。
夜。
第二王子が訪ねてくる。
単独。
「制度設計監査室の長、ですね」
柔らかな声。
「殿下」
一礼。
「兄上は、あなたを信頼している」
穏やかに言う。
「だが、信頼と依存は違う」
探るような視線。
「あなたは、どちらですか」
沈黙。
「制度です」
即答。
「人ではなく」
第二王子は、小さく笑う。
「面白い」
そして一言。
「兄上が王になれぬなら、私がなる」
軽い調子。
だが本気。
その目は揺れない。
「その時、あなたは誰の隣に立つ」
直球。
政治でもなく、理念でもない。
個人への問い。
リリアーナは視線を逸らさない。
「国家が持続する側です」
即答。
第二王子は、数秒彼女を見つめ、
そして頷く。
「では、私は試される側だ」
そう言って去る。
回廊の闇が深まる。
王太子は学び始めた。
レオンは担がれかけている。
第二王子は帰還した。
玉座は、今や明確に揺れている。
そして。
外では交易都市連盟の視察団が、国境を越えようとしていた。
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