第67話 公開される決裁
制度設計監査室に、新しい権限が付与されて七日。
王太子の全決裁が、事後監査対象となった。
公開監査。
王族を含む、例外なき制度。
最初の案件は、北方防備費の再配分。
緊急性あり。
迅速処理。
だが。
「……予備費移動の承認根拠が簡略化されています」
ルークが報告する。
「法的には問題なし」
「ですが、理由記載が不十分」
小さな不備。
違法ではない。
だが、公開監査に耐えるかと問われれば、弱い。
「どうしますか」
室内の視線が、リリアーナへ集まる。
彼女は、書類を閉じる。
「公開します」
即答。
「指摘も含めて」
ためらいはない。
だが重い。
王太子自らが選んだ制度。
その最初の指摘対象が、王太子自身。
午後。
公開監査報告が重臣会議に提出される。
室内は静まり返る。
王太子は、静かに報告書を受け取る。
目を通す。
理由記載の簡略。
改善勧告。
非難ではない。
だが明確な指摘。
大公が言う。
「殿下、いかがなさる」
王太子は、数秒沈黙する。
そして。
「勧告を受け入れる」
はっきりと言う。
「記載基準を強化」
「私の決裁も例外ではない」
室内に、小さなざわめき。
王族が、自らの不備を認める。
前例は少ない。
レオンは、わずかに視線を動かす。
リリアーナは、表情を変えない。
会議後。
回廊。
王太子が、彼女に近づく。
「容赦ないな」
だが声に怒りはない。
「制度です」
静かに答える。
「私が望んだ」
王太子は、わずかに笑う。
「痛い」
「ですが」
「効いているか」
視線が交わる。
「はい」
短い。
王太子は、ゆっくりと頷く。
「ならば続けろ」
それだけ。
夜。
軍部の一部から、不満の声が上がる。
「王太子の権威を削る」
「監査が過剰だ」
だが大公が言う。
「王が制度に従う姿は、弱さではない」
「強さだ」
翌日。
公開された監査報告は、王宮内に広がる。
王太子が不備を認め、修正した。
それは、失点ではなかった。
むしろ。
評価を変え始める。
一方。
レオンは静かに言う。
「あなたは難しい立場だな」
「はい」
リリアーナは頷く。
「殿下を削りもする」
「支えもする」
「削ってはいません」
「整えています」
だが。
その境界は細い。
公開される決裁。
公開される責任。
王位への道は、光の下に出された。
揺らぎは続く。
だが。
今、王宮は初めて“透明な緊張”の中にあった。
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