第66話 保守派の提案
重臣会議は、非公開で招集された。
出席者は限られる。
王太子。
軍務卿。
財務卿。
そして――大公クラウディウス。
国王は静養中。
議題は明記されていない。
だが空気が示している。
王位の話だ。
「陛下のご回復は順調だ」
大公が口を開く。
「だが、万一に備えるのが国家の責務」
誰も否定しない。
「よって提案する」
静かな間。
「限定的摂政体制の導入」
室内が張り詰める。
「殿下が王政を主導」
「だが軍務と財務の最終決裁は、共同署名制」
つまり。
王太子単独ではない。
実質的な“監視”だ。
王太子の目が、わずかに細くなる。
「私を信用しないと」
「信用と制度は別だ」
大公は即答する。
「王は万能ではない」
「ゆえに制度がある」
合理的。
だが痛い。
軍務卿が言う。
「共同署名者は」
「軍務卿補佐官レオン殿」
空気が揺れる。
軍部の声が、形になった。
レオンは静かに言う。
「私は王太子殿下の補佐だ」
「玉座の横に立つ意思はない」
大公は視線を向ける。
「それは個人の意思」
「国家は個人の意思で動かぬ」
沈黙。
王太子が口を開く。
「……摂政体制は不要だ」
低い声。
「陛下はご健在」
「私は王太子として職務を果たしている」
大公は退かない。
「殿下」
「国家は“可能性”にも備える」
制度としての提案。
拒否すれば“独断”。
受ければ“制限”。
選択肢はどちらも重い。
一方。
制度設計監査室。
「共同署名制、ですか」
ルークが言う。
「はい」
報告を受けたリリアーナは静かに頷く。
王太子の権限制限。
レオンの権限拡大。
均衡か。
分裂か。
夜。
回廊。
レオンが言う。
「巻き込まれた」
「はい」
「受けるつもりはない」
即答。
「だが断れば、軍部は反発する」
現実。
「あなたはどう見る」
問い。
リリアーナは、ゆっくりと答える。
「制度としては合理的です」
「だが」
「人心が割れます」
共同署名は監視。
監視は不信を生む。
「殿下は」
「受けません」
即答。
彼女は王太子の目を思い出す。
あの沈黙。
あの選択。
責任を背負った者の視線。
「……あなたは殿下を信じているのか」
レオンの問い。
一瞬だけ迷い。
だが答える。
「私は流れを見ています」
信じるか否かではない。
どの選択が国家を安定させるか。
翌朝。
重臣会議再開。
王太子は立ち上がる。
「摂政体制は導入しない」
明確な拒否。
「だが」
全員の視線が集まる。
「制度設計監査室に、全決裁の事後監査権を与える」
室内が揺れる。
自分の権限を、別機関に委ねる。
監視ではない。
公開。
透明化。
大公が、わずかに目を細める。
「殿下は、自らを晒すと」
「王とはそういうものだ」
短い言葉。
借り物ではない。
レオンは沈黙する。
リリアーナは、静かに目を伏せる。
巻き込まれた。
だが。
王太子は、自分で均衡を選んだ。
共同署名ではない。
公開監査。
三角構造は、さらに複雑になる。
玉座は、まだ揺れている。
だが。
揺れの中で、誰も逃げていない。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




