第65話 軍部の声
軍務会議室の空気は、普段より重かった。
議題は表向き、北方警備の再配置。
だが本題は別にある。
「殿下のご負担が増えている」
老将が口火を切った。
「国王陛下が静養中の今、実務は軍務卿補佐官殿が担っている」
視線が集まる。
レオンは無言。
「外交も成功」
「制度設計の安定も、補佐官殿の下で進んでいる」
別の将が続ける。
「王の資格とは、実務だ」
静かな衝撃。
王太子の名は出ない。
だが対比は明白。
「……発言は慎め」
軍務卿が低く言う。
だが止めきれない。
「我らは国家の持続を望む」
「ならば、最も安定する者を」
言い切らない。
だが意味は明白。
レオンは、静かに立ち上がる。
「私の名を、玉座に近づけるな」
低く、はっきりと。
「私は軍務を担う」
「王位を望まぬ」
だが老将は退かない。
「望むかどうかではない」
「担えるかどうかだ」
その一言が重い。
会議は表向き収束した。
だが噂は、確実に広がる。
制度設計監査室。
「本格化しましたね」
ルークが言う。
「はい」
リリアーナは即答する。
軍部が動けば、現実味が増す。
“レオン王候補説”。
夜。
回廊。
レオンが現れる。
「聞いているな」
「はい」
短い応答。
沈黙が落ちる。
「……困る」
正直な言葉。
「私は王ではない」
「軍を整える者だ」
その声音に、苛立ちはない。
ただ困惑。
「拒めますか」
リリアーナが問う。
「今は」
だが将来は分からない。
担がれる。
推される。
国家が動く。
「もし」
レオンが静かに言う。
「私が王に押し上げられたなら」
一瞬、言葉が止まる。
「あなたはどうする」
夜風が吹く。
これは政治ではない。
個人の問い。
リリアーナの胸が、わずかに締まる。
初めて。
迷いが生まれる。
「……国家が安定する形を選びます」
答えは変わらない。
だが。
声が、わずかに揺れる。
レオンは気づく。
「個人ではない、か」
「はい」
「だが」
レオンの声が低くなる。
「私は、個人として聞いている」
数秒の沈黙。
心臓の鼓動が、自分でも分かる。
「私は」
言葉を選ぶ。
「並びます」
それだけ。
王か補佐かではない。
並ぶ。
レオンの目が、わずかに揺れる。
「……それは危険だ」
「承知しています」
即答。
覚悟の声。
遠くで鐘が鳴る。
夜が深まる。
一方。
王太子は、軍部の動きを報告で知る。
“補佐官推し”。
胸の奥が、わずかに熱くなる。
嫉妬ではない。
焦りでもない。
ただ、現実。
「私は」
小さく呟く。
「選ばれる側か」
玉座は、まだ空いていない。
だが。
軍部の声が、風向きを変え始めている。
三角構造は、ついに表面化した。
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