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第60話 合理の先にあるもの

 観察期間、最終日。


 王宮大広間にて、ルミエール公国との最終確認書が交わされる。


 指数は安定。


 誤差率二・一%。


 速度は改革前水準を上回る。


 短期揺らぎは収束した。


 レナードが、正式文書に署名する。


「三か月の観察、問題なし」


「免除条項は継続」


 落ち着いた声。


 王太子も署名する。


 筆先は、以前より慎重だ。


 署名が終わると、レナードが一歩下がる。


「今回の件」


「我が国は貴国の再設計を評価する」


 視線が、自然にリリアーナへ向く。


 ざわめき。


 だが今回は小さい。


 もう驚きではない。


 国王が立ち上がる。


「ルミエールとの信頼は、維持された」


 低く、響く声。


「それは合理だけでは成らぬ」


 室内が静まる。


「合理の先にあるのは、持続だ」


 視線が動く。


「整える者の働きにより、我が国は持続を得た」


 直接名を呼ばない。


 だが。


 全員が理解している。


 国王は続ける。


「よって」


 わずかな間。


「後方管理室を、制度設計監査室へ改編する」


 ざわめきが広がる。


「全庁横断監査権限を付与」


 重い言葉。


 裏方ではない。


 制度設計に関与する正式機関。


 王太子の視線が、一瞬だけ揺れる。


 だが否定しない。


 レオンが、静かに頭を下げる。


「謹んで受ける」


 リリアーナも、深く一礼する。


「役割を果たします」


 それだけ。


 勝利宣言はない。


 誇示もない。


 ただ、受ける。


 レナードが微笑む。


「貴国は変わるだろう」


「良い方向へ」


 文書交換が終わる。


 外交は正式決着。


 回廊。


 人が散った後。


 レオンが並ぶ。


「制度設計監査室、か」


「重いですね」


「重いのは責任だ」


 少しだけ沈黙。


「怖くないか」


「怖いです」


 素直に答える。


「だが」


「あなたがいる」


 小さな声。


 レオンは、わずかに息を止める。


「守るとは言わない」


「並ぶと言ったな」


「はい」


「ならば、並ぶ」


 短い。


 だが確かな約束。


 一方。


 王太子は大広間の端に立っている。


 外交は成功。


 国は安定。


 自分は失脚していない。


 だが。


 制度設計監査室。


 それは、自分の改革を監視する機関でもある。


 否定ではない。


 だが、制限だ。


 国王が静かに近づく。


「立ち止まることも、王の資質だ」


 低く言う。


「学べ」


 それだけ。


 王太子は、ゆっくりと頭を下げる。


 合理の先にあるもの。


 それは、勝敗ではない。


 持続。


 そして。


 並び立つ者の存在。


 制度設計監査室は、今日誕生した。


 王宮の力学は、完全に再配置された。


 静かに。


 確実に。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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