第6話 追放された先は、王宮の裏側でした
王宮後方管理室は、想像していたよりもずっと静かな場所だった。
豪奢な装飾はない。
磨き上げられた床も、彩り豊かな壁画もない。
代わりにあるのは、無機質な石壁と、整然と並んだ棚。
棚には、年季の入った帳簿や、封印されたままの書類箱が積まれている。
「……本当に、裏側ですね」
思わず、そう呟いていた。
案内してくれた職員は、苦笑いを浮かべる。
「王宮の表で使われる書類は、すべて一度ここを通ります。
ですが……誰も、ここに関心を持ちません」
それは、皮肉でも自嘲でもなかった。
ただの事実だ。
机は三つ。
人員は、私を含めて四人。
年配の文官が一人、若い補佐官が二人。
そして、私。
彼らは、私を見ると一瞬だけ身構えた。
――当然だろう。
元・王太子の婚約者。
悪役令嬢。
しかも、婚約破棄直後。
扱いづらいこと、この上ない。
「今日からお世話になります。リリアーナ・エルフォードです」
私は、自分から名乗った。
丁寧に。
けれど、過剰にならないように。
「……あ、はい。こちらこそ」
年配の文官が、少し遅れて頭を下げる。
「私は管理室責任者のバルドです。
ここは……ええと、地味な部署ですが」
「構いません」
私は、すぐに答えた。
評価も、期待も、いらない。
ここでは、それが一番の安心材料だ。
「業務内容を教えてください」
その一言に、三人がわずかに目を見開いた。
普通なら、
「まずは様子を見させてください」
そう言うところだろう。
「……では」
バルドは、少し考えてから、書類の束を差し出した。
「過去十年分の支出記録です。
照合が終わっていないものが多くて」
十年分。
普通なら、嫌がられる仕事だ。
私は、書類を受け取った。
「分かりました」
それだけ言って、席につく。
紙の匂い。
インクのかすれ。
懐かしい感覚だった。
私は、自然と集中していた。
誰も見ていない。
誰も評価しない。
だからこそ、
数字と事実だけに向き合える。
「……これは」
一時間ほど経った頃、
私は、ある違和感に気づいた。
支出の名目と、実際の用途が合っていない。
わずかな差額。
だが、積み重なれば無視できない。
私は、赤で印をつけ、別紙に書き出す。
気づけば、周囲の音が遠のいていた。
「……すごい集中力だな」
小さな声が聞こえたが、気にしない。
仕事を終え、顔を上げたときには、すでに日が傾いていた。
「今日は、ここまでにしておきましょう」
バルドが、そう声をかける。
私は、頷いた。
「明日、続きを確認します」
帰り際、ふと振り返る。
この部屋は、
誰も憧れない場所だ。
けれど。
ここなら、
私は、私のままでいられる。
期待されなくていい。
褒められなくていい。
ただ、必要なことを、
必要なだけ、正しくやる。
――悪くない。
そう思えたことに、
私は、少しだけ驚いていた。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




