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第58話 速度の代償

 夜。


 王太子の執務室は、灯りが落とされていた。


 机の上には、三年前の契約書。


 第十四項。


 免除条項。


 若い頃の署名。


 あの時、自分は自信に満ちていた。


 迅速な決裁。


 即断即決。


 それが評価された。


「速度こそ、王族の資質」


 父王にも、そう言われた。


 迷わないこと。


 立ち止まらないこと。


 だが。


 今日の交渉席。


 レナードの問い。


 そして――


 リリアーナの答え。


 “構造設計の問題です”


 責められなかった。


 だが、否定もされなかった。


 速度は正しい。


 だが。


 速度は、確認を削る。


 削れば、穴ができる。


「……私は間違っているのか」


 独り言は、誰にも届かない。


 扉がノックされる。


 側近が入室する。


「観察期間中の指数は上昇しています」


「そうか」


 短い返答。


「再均衡案は評価されつつあります」


「私の改革は」


 問いは、低い。


「……過程として評価されるでしょう」


 歯切れが悪い。


 王太子は、静かに目を閉じる。


 改革は間違いではない。


 だが、未完成だった。


 整えられた。


 自分ではなく、あの令嬢によって。


 一方。


 後方管理室。


 リリアーナは契約台帳を再設計していた。


「期限管理欄を追加」


「自動通知工程を復活」


 ルークが言う。


「今回、かなり危なかったですね」


「はい」


「責めなかったのはなぜですか」


 ペンが止まる。


「責めれば、対立になります」


「対立は速い」


「ですが、整いません」


 静かな答え。


 その頃。


 レオンは回廊を歩いていた。


 王太子の部屋の灯りが、まだ消えていないのを見ている。


「速度の代償、か」


 小さく呟く。


 翌朝。


 簡易報告会。


 王太子はいつもより落ち着いていた。


「契約更新工程を制度化する」


 短く言う。


「再発防止を優先」


 室内が静まる。


 否定ではない。


 修正を受け入れる姿勢。


 リリアーナは、一瞬だけ視線を上げる。


 王太子と目が合う。


 数秒。


 何も言わない。


 だが。


 その沈黙は、以前とは違う。


 速度は悪ではない。


 だが、代償がある。


 その代償を学ぶかどうか。


 それが、次の分岐。


 王太子は、まだ崩れていない。


 だが。


 初めて立ち止まった。


 それは敗北ではない。


 未熟さの終わりかもしれない。

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