第51話 隣国からの抗議
王宮に届いたのは、薄い羊皮紙だった。
だが、その内容は重い。
――ルミエール公国より正式抗議。
関税再計算の誤り。
契約更新通知の遅延。
輸出停止の可能性。
軍務卿補佐室の空気が、静かに張り詰める。
「……外交案件だな」
軍務卿が、低く言う。
「補給改革初期の契約処理が原因の可能性があります」
レオンは、資料を差し出す。
承認段階削減期間中、
外国契約の横断確認も簡略化されていた。
「王太子の改革初期か」
「はい」
沈黙。
王太子の執務室でも、同じ報告が上がっていた。
「輸出停止だと?」
「可能性、と」
「脅しか」
側近は慎重に答える。
「ルミエールは理詰めの国です」
「……交渉を準備しろ」
だが、その声には以前の強さがない。
同時刻。
後方管理室。
「外交問題ですか」
ルークが目を丸くする。
「関税計算の基準更新が未反映のようです」
リリアーナは、届いた写しを読む。
処理速度を優先した時期。
契約更新の横断確認が後回しにされた。
「整えますか」
バルドが問う。
「整えます」
即答。
そのとき、扉が開く。
レオンだった。
「ルミエールの使節が来る」
「いつですか」
「三日後」
短い。
「交渉席に同席してほしい」
室内が静まる。
ルークが目を見開く。
「……私がですか」
リリアーナは、静かに問う。
「あなた以外に、流れを説明できる者はいない」
公的な場。
外交席。
裏方が立つ場所ではない。
「形式上は補佐」
レオンは続ける。
「発言は私が行う」
「ですが」
「あなたが隣にいる」
その一言は、重かった。
公に、隣に立たせる。
それは立場を示す行為。
「……王太子殿下は」
「了承済みだ」
淡々と。
だが、その意味は大きい。
王太子は、否定できなかった。
リリアーナは、数秒黙る。
「承知しました」
短い返答。
だが、心の奥がわずかに揺れる。
外交席。
視線が集まる。
噂が広がる。
裏方の悪役令嬢が、公の場に立つ。
レオンは、ほんのわずかに声を落とす。
「不安か」
「少し」
正直な答え。
「だが、あなたが隣にいれば十分だ」
静かな断言。
守るではない。
並ぶ。
後方管理室に戻ると、ルークが小声で言う。
「完全に特別扱いですね」
「違います」
リリアーナは、淡々と答える。
「流れの説明役です」
だが、分かっている。
これはただの業務ではない。
王宮内での立ち位置が、一段上がった。
三日後。
ルミエール公国使節団到着。
代表は、
レナード・ヴァルシエ。
理詰めで有名な外交官。
挑発的で、容赦がないと噂される男。
王宮の大広間。
交渉席が整えられる。
王太子は中央。
レオンは右席。
そして――
レオンの隣に、リリアーナが座る。
ざわめきが、小さく広がる。
裏方の令嬢。
悪役と噂された女。
だが今は、
外交席に座る存在。
レナードの視線が、静かに彼女へ向けられる。
「……興味深い布陣ですね」
薄く笑う。
「裏方を前に出すとは」
挑発。
王太子の眉がわずかに動く。
だが、レオンは落ち着いて答える。
「整えた者が説明するのが、最も合理的です」
静かな火花が散る。
知性の交渉が始まる。
そして。
レオンは、自然な動作で言った。
「本件の流れ説明は、こちらに」
視線が、リリアーナに集まる。
守られるのではない。
信頼されて前に出る。
その瞬間。
王宮内の力学が、また一段、動いた。
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