第48話 整える者の沈黙
臨時会議が招集されたのは、五・二%の報告が上がった翌日だった。
議題は、補給遅延と修正増加。
王太子は、いつも通り堂々としている。
「処分は行った」
短い言葉。
「現場の緊張不足が原因だ」
重臣たちは、資料を見ている。
修正件数推移。
地域別誤差。
処分者一覧。
その中に、もう一枚の資料が差し込まれた。
「……これは」
軍務卿が、目を細める。
累積誤差推移グラフ。
改革施行前後の比較。
横断確認削減後の増加曲線。
提出者名――
後方管理室。
分析担当:リリアーナ・フォン・アルヴェイン。
王太子の目が、鋭くなる。
「裏方が口を出すのか」
冷たい声。
室内の空気が張り詰める。
リリアーナは、静かに一礼した。
「口出しではありません」
「では何だ」
「事実の整理です」
淡々とした声。
「改革施行前の累積誤差率は、月平均一・八%」
「施行後、二週間で五・二%」
誰も否定できない数字。
「処分された個人の担当区域以外でも、同様の増加が見られます」
地域別の色分け図を示す。
「共通項は、承認段階削減と横断確認停止」
沈黙。
王太子は、机を軽く叩く。
「速度は上がっている」
「はい」
「成果も出ている」
「はい」
「ならば許容範囲だ」
その瞬間。
リリアーナは、もう一枚の資料を差し出した。
「現場吸収率推移です」
修正対応時間の増加。
通常業務遅延率。
「吸収が限界を超えています」
軍務卿が、低く言う。
「……南部駐屯地の訓練延期」
「はい」
リリアーナは、目を逸らさない。
「個人の怠慢ではありません」
「構造的過負荷です」
王太子の声が、わずかに荒れる。
「裏方の分析に、そこまでの価値があると?」
「ありません」
即答だった。
室内が、凍る。
「価値があるのは、数字です」
静かな反撃。
「私は整えただけです」
怒りはない。
責める口調でもない。
ただ、数字を並べる。
「責任の所在を曖昧にすれば、再発します」
「再発を防ぐための資料です」
軍務卿が、深く息を吐く。
「処分は早計だったな」
誰もが聞こえる声。
王太子の指が、止まる。
「では、どうする」
軍務卿が問う。
リリアーナは、短く答える。
「横断確認の一部復帰」
「承認削減の再検討」
「速度と整備の再均衡」
合理的提案。
感情はない。
ただ、構造。
長い沈黙の後。
軍務卿が言った。
「暫定修正案として採用する」
王太子は、何も言わない。
否定すれば、数字を否定することになる。
会議が散会した後。
廊下。
レオンが、低く言う。
「よくやった」
「整えただけです」
「あなたは、責めなかった」
「責める必要がありません」
流れが原因。
人ではない。
王太子は、遠くから二人を見ていた。
初めて感じる。
発言の重みが、以前と違う。
処分は軽率だった。
それは誰の目にも明らか。
整える者の沈黙は、
怒号よりも強い。
五・二%は、
ただの数字ではなかった。
それは、王太子の権威を
静かに削る刃だった。
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