表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/102

第48話 整える者の沈黙

 臨時会議が招集されたのは、五・二%の報告が上がった翌日だった。


 議題は、補給遅延と修正増加。


 王太子は、いつも通り堂々としている。


「処分は行った」


 短い言葉。


「現場の緊張不足が原因だ」


 重臣たちは、資料を見ている。


 修正件数推移。


 地域別誤差。


 処分者一覧。


 その中に、もう一枚の資料が差し込まれた。


「……これは」


 軍務卿が、目を細める。


 累積誤差推移グラフ。


 改革施行前後の比較。


 横断確認削減後の増加曲線。


 提出者名――


 後方管理室。


 分析担当:リリアーナ・フォン・アルヴェイン。


 王太子の目が、鋭くなる。


「裏方が口を出すのか」


 冷たい声。


 室内の空気が張り詰める。


 リリアーナは、静かに一礼した。


「口出しではありません」


「では何だ」


「事実の整理です」


 淡々とした声。


「改革施行前の累積誤差率は、月平均一・八%」


「施行後、二週間で五・二%」


 誰も否定できない数字。


「処分された個人の担当区域以外でも、同様の増加が見られます」


 地域別の色分け図を示す。


「共通項は、承認段階削減と横断確認停止」


 沈黙。


 王太子は、机を軽く叩く。


「速度は上がっている」


「はい」


「成果も出ている」


「はい」


「ならば許容範囲だ」


 その瞬間。


 リリアーナは、もう一枚の資料を差し出した。


「現場吸収率推移です」


 修正対応時間の増加。


 通常業務遅延率。


「吸収が限界を超えています」


 軍務卿が、低く言う。


「……南部駐屯地の訓練延期」


「はい」


 リリアーナは、目を逸らさない。


「個人の怠慢ではありません」


「構造的過負荷です」


 王太子の声が、わずかに荒れる。


「裏方の分析に、そこまでの価値があると?」


「ありません」


 即答だった。


 室内が、凍る。


「価値があるのは、数字です」


 静かな反撃。


「私は整えただけです」


 怒りはない。


 責める口調でもない。


 ただ、数字を並べる。


「責任の所在を曖昧にすれば、再発します」


「再発を防ぐための資料です」


 軍務卿が、深く息を吐く。


「処分は早計だったな」


 誰もが聞こえる声。


 王太子の指が、止まる。


「では、どうする」


 軍務卿が問う。


 リリアーナは、短く答える。


「横断確認の一部復帰」


「承認削減の再検討」


「速度と整備の再均衡」


 合理的提案。


 感情はない。


 ただ、構造。


 長い沈黙の後。


 軍務卿が言った。


「暫定修正案として採用する」


 王太子は、何も言わない。


 否定すれば、数字を否定することになる。


 会議が散会した後。


 廊下。


 レオンが、低く言う。


「よくやった」


「整えただけです」


「あなたは、責めなかった」


「責める必要がありません」


 流れが原因。


 人ではない。


 王太子は、遠くから二人を見ていた。


 初めて感じる。


 発言の重みが、以前と違う。


 処分は軽率だった。


 それは誰の目にも明らか。


 整える者の沈黙は、


 怒号よりも強い。


 五・二%は、


 ただの数字ではなかった。


 それは、王太子の権威を


 静かに削る刃だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ