第47話 責任はどこに
南部駐屯地の遅延から、さらに二日。
追加報告が重なった。
「西部輸送路、再遅延」
「北部倉庫、数量再修正」
修正件数は、前日比一・五倍。
累積誤差率――
「……五・二%」
ルークの声が、静かに震える。
閾値を超えた。
後方管理室の空気が、わずかに変わる。
「吸収限界です」
バルドが、低く言う。
修正に追われ、通常業務が遅れ始めている。
誤差が誤差を呼ぶ。
連鎖。
一方、中央管理室。
「誰の処理だ!」
怒声が飛ぶ。
「北部担当か?」
「い、いえ、承認は簡略化工程で」
「言い訳するな!」
速度は維持されている。
だが修正が増え、現場は疲弊している。
掲示板の数字は、まだ高い。
だが、その裏で修正件数が跳ねている。
王太子の執務室。
「五%を超えました」
側近が、慎重に報告する。
「修正件数増加」
「一時的だ」
王太子は、即答する。
「担当者の緊張不足だ」
「ですが、複数地域で」
「ならば責任を明確にしろ」
冷たい声。
「遅延発生部署の責任者を処分」
「……処分、ですか」
「改革の理念を理解していない」
速度は正しい。
誤差は怠慢。
王太子の頭の中では、構図は単純だった。
その日の午後。
中央管理室で、処分通達が出た。
北部担当補佐官、降格。
南部輸送責任者、減給。
セオドールは、通達を見つめる。
「……違う」
小さく呟く。
問題は個人ではない。
構造だ。
夕刻。
彼は後方管理室へ向かった。
「処分が出ました」
「そうですか」
リリアーナは、静かに答える。
「個人の責任に」
「予想通りです」
淡々とした声。
「ですが」
セオドールは、拳を握る。
「構造が原因です」
「ええ」
「止めるべきです」
「止めます」
短い返答。
「今です」
彼女は、数字の一覧を示す。
「五・二%」
明確な数字。
「吸収限界超過」
「……証明」
「はい」
彼女は、資料を整え始める。
「個人責任ではないと示します」
感情ではなく。
構造で。
夜。
軍務卿補佐室。
「処分が出た」
レオンは、短く言う。
「五%を超えました」
「五・二」
彼は、目を閉じる。
「動くか」
「はい」
迷いはない。
「記録は揃いました」
後方管理室。
リリアーナは、修正件数の推移を線で結ぶ。
北部。
南部。
西部。
東部。
南部駐屯地。
そして、五%超過。
「責任はどこに」
ルークが、小さく言う。
「個人ではありません」
彼女は、静かに答える。
「流れです」
そして。
「流れを変えた者にあります」
王太子が、初めて大きな誤りを犯した。
責任転嫁。
それは、改革の正当性を自ら削る。
五%は、ただの数字ではない。
崩壊の合図だった。




