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第46話 最初の遅延

 改革施行から二週間。


 ついに、数字ではない報告が上がった。


「王都南部駐屯地、物資未着」


 軍務卿補佐室に届いた急報は、短いが重い。


「理由は」


「倉庫間転送の承認漏れ」


 横断確認が削減された工程だ。


「到着予定から三日遅れ」


 三日。


 戦場ではない。


 だが、訓練は止まる。


 兵站は乱れる。


 軍務卿が、低く言う。


「小さいな」


「はい」


 レオンは、資料を受け取る。


「だが、初めてだ」


 数字ではない。


 実害。


 一方、王太子の執務室。


「三日遅れ?」


「既に再送済みです」


 側近が答える。


「単発事案かと」


「修正は」


「完了しています」


 王太子は、短く頷く。


「速度は維持されているな」


「はい」


「なら問題ない」


 その判断は、合理的に見える。


 だが、後方管理室。


 リリアーナは、南部駐屯地の報告を静かに受け取った。


「……来ましたね」


 ルークが、小さく言う。


「はい」


「現場影響です」


 北部誤差。


 南部遅延。


 西部修正。


 東部誤差。


 そして、南部駐屯地の三日遅れ。


 リリアーナは、五つの報告を並べる。


「累積誤差率は」


「四・三%」


 五%に近づく。


 現場吸収限界。


「まだ、です」


 バルドが言う。


「ええ」


 彼女は頷く。


「まだ」


 だが、数字の跳ね方が変わっている。


 修正件数が、前週比二倍。


 処理件数は増加。


 修正率も増加。


「吸収が追いつかなくなっています」


 夜。


 セオドールが、息を切らして訪れた。


「南部駐屯地の件、ご存じですか」


「はい」


「現場から不満が出始めています」


 当然だ。


 兵站は命綱。


「止めるべきでは」


 焦りが滲む。


 リリアーナは、静かに首を振る。


「数字は」


「四・三%」


「あと少し」


 セオドールは、目を見開く。


「まだ待つのですか」


「はい」


「三日遅れですよ」


「三日で済んでいます」


 冷静な指摘。


「これが五日になれば」


 吸収不能。


「……非情です」


「整えるには、証明が要ります」


 感情では動かない。


 王太子は、速度という成果を掲げている。


 それを覆すには、


 “明確な失敗”が必要。


 翌日。


 南部駐屯地から追加報告。


「補給再調整のため、訓練延期」


 小さな遅延が、波及する。


 軍務卿補佐室。


「五%に近い」


 レオンが、低く言う。


「四・八」


「早いな」


「はい」


 彼は、窓の外を見つめる。


「あなたは、どこまで正確なのだ」


 後方管理室。


 リリアーナは、静かに数字を書き込む。


 四・八。


 五まで、あと少し。


 怖くないわけではない。


 だが、戻すなら今ではない。


 曖昧なままでは、また繰り返す。


 整えるとは、


 流れを止めることではない。


 流れの歪みを、誰もが見える形にすること。


 最初の遅延は、


 小さい。


 だが。


 確実に、次を呼ぶ。

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