第43話 歪みの兆候
改革施行から一週間。
中央管理室の掲示板には、誇らしげな数字が並んでいた。
処理速度、前月比一二〇%。
承認時間、平均三割短縮。
「成果が出ていますね」
文官の一人が言う。
「当然だ。無駄を削った」
王太子の側近が胸を張る。
表面上は、成功。
だが、その日の午後。
小さな報告が上がった。
「北部倉庫、納品数不足」
「誤差二%」
微細なズレ。
通常なら、即日修正で終わる。
「原因は?」
「申請番号の入力漏れ」
「誰の責任だ」
「担当者の確認不足と」
速度優先の現場では、確認工程が減っている。
だが、まだ軽微だ。
修正は可能。
翌日。
後方管理室。
ルークが、帳簿を見ながら言う。
「北部倉庫、誤差が出ました」
「二%ですね」
「もう把握してるんですか」
「数字は回ってきます」
改革後も、最終集計は後方管理室に届く。
私は、該当箇所に印をつける。
「単発ですか」
「今のところは」
バルドが、低く言う。
「増えますか」
私は、少しだけ考える。
「増えます」
迷いはない。
「なぜ」
「確認工程が削減されています」
速度は上がる。
だが、横断視点が減る。
「一点に負荷が集中します」
今は二%。
だが。
「連鎖します」
夕刻。
中央管理室。
「北部倉庫の件は修正済みです」
セオドールが報告する。
「問題なし」
上司は、軽く言う。
「処理速度は維持」
「はい」
だが、彼の目は、どこか落ち着かない。
入力漏れ。
確認不足。
承認段階削減。
偶然か。
それとも。
夜。
王太子の執務室。
「二%だろう」
側近が報告する。
「些細です」
「騒ぐな」
王太子は、短く言い放つ。
「速度が上がっている」
「はい」
「多少の誤差は許容範囲だ」
合理的。
正しい判断のように聞こえる。
だが。
翌々日。
「南部輸送経路、納期遅延」
「理由は?」
「倉庫間の連絡未確認」
横断確認が削られた影響。
今度は遅延。
まだ小さい。
だが、別の形で現れる。
後方管理室。
私は、二つの報告を並べる。
北部誤差。
南部遅延。
別の事象。
だが、原因は同じ。
「流れが分断されています」
ルークが、息を呑む。
「まだ軽微です」
「はい」
「でも」
「増えます」
静かな確信。
レオンが、扉を開ける。
「北部と南部」
「把握しています」
「まだ小さい」
「はい」
「だが、早い」
レオンは、資料を見つめる。
「速度を上げた結果か」
「ええ」
私は、視線を落とす。
「圧が分散されず、跳ね返っています」
「止めるか」
短い問い。
「まだ」
「なぜ」
「証明が足りません」
感情では、動かせない。
数字が揃わなければ。
王太子の改革は、今も成功と評価されている。
だが。
流れは、嘘をつかない。
二%の誤差。
一日の遅延。
小さな歪みは、
やがて繋がる。
まだ誰も、危機とは呼ばない。
だが。
確実に、始まっている。




