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第42話 反対しない理由

 新補給改革案が施行されて三日。


 王宮の空気は、わずかに変わった。


 廊下を行き交う文官たちの足取りが早い。


 中央管理室では、月次処理件数の掲示が始まった。


 順位付き。


 達成率の数値付き。


「……競争ですね」


 セオドールが、小さく呟く。


「悪いことではない」


 上司が答える。


「怠慢は減る」


 確かに、処理速度は上がった。


 承認は早い。


 書類は滞らない。


 だが。


「横断確認は?」


「現場裁量だ」


 曖昧な答え。


 その日の夕方、セオドールは後方管理室を訪れた。


「お時間、よろしいでしょうか」


「どうぞ」


 リリアーナは、いつも通り静かだ。


「改革案について」


「ええ」


「問題が起きる可能性があると、思いませんか」


「あります」


 即答。


 迷いもない。


「では、なぜ反対されなかったのですか」


 率直な問い。


 ルークが、少しだけ視線を逸らす。


 だがリリアーナは、落ち着いて答える。


「決定されたからです」


「それでは、遅いのでは」


「遅い?」


「崩れてからでは」


 彼女は、ゆっくりと帳簿を閉じる。


「崩れる前に止めるには、証拠が必要です」


 静かな声。


「予測では、止まりません」


 セオドールは、息を詰める。


「ですが、分かっているのに」


「分かっているのは、私だけです」


 否定ではない。


 事実。


「整える側が感情で反対すれば、説得力を失います」


 王太子は速度を選んだ。


 今は速度が出ている。


 数字も上がっている。


 それを否定する材料は、まだない。


「では」


「記録が必要です」


 再びその言葉。


「歪みが数字に出れば、誰も否定できません」


 感情ではなく。


 印象ではなく。


 数字。


「……冷酷に聞こえます」


 セオドールが言う。


「そうでしょうか」


「崩れるのを待つようで」


 リリアーナは、少しだけ視線を落とす。


「崩れるのを望んではいません」


 静かな否定。


「ですが、無理に支えれば、より大きく割れます」


 負荷は逃げ道を探す。


 逃げ道を塞げば、破裂する。


「整えるとは、無理に止めることではありません」


 流れを見て。


 歪みを知り。


 最小の力で戻す。


「……理解しました」


 セオドールは、小さく頭を下げる。


「焦っていました」


「焦るのは当然です」


 順位表。


 達成率。


 競争。


 焦らせる設計。


「速度は、魅力的です」


 だが。


「速度は、負荷を増やします」


 それが見えないうちは、止まらない。


 帰り際、セオドールは振り返る。


「崩れたら、どうされますか」


「整えます」


 即答。


「それが役目ですから」


 夜。


 軍務卿補佐室。


「後方管理室は静観か」


 軍務卿が言う。


「はい」


 レオンは、短く答える。


「止めないのか」


「止まりません」


「なぜ」


「まだ壊れていない」


 軍務卿は、低く笑う。


「壊れると分かっているのに」


「分かっているのは、一部だけです」


 レオンは、窓の外を見る。


「記録が出れば、誰も庇えない」


 王太子の改革は、今は成功に見える。


 だが、流れは正直だ。


 圧は蓄積する。


 やがて。


 数字に現れる。


 反対しないのは、無関心ではない。


 勝つためでもない。


 整えるためだ。


 静かな沈黙は、


 嵐の前触れではない。


 証明の準備だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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