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第31話 この部署は、必要です

 王宮の定例会議は、いつも通り形式的に始まった。


 だが、議題の中ほどで空気が変わる。


「後方管理室の再編案について」


 書記官が読み上げる。


 縮小。


 統合。


 人員削減。


 前回は保留。


 今回は、決定に近い。


「無駄は削るべきだ」


 王太子の声は、穏やかだが強い。


「裏方に人員を割く余裕はない」


 数名が頷く。


 反対する理由は、表向きにはない。


 そのとき。


「この部署は、必要です」


 静かな声が、会議室に落ちた。


 レオン・ヴァレンティ。


 王太子の視線が向く。


「理由は」


「現状、後方管理室は王宮内で最も安定した処理を行っています」


「それは報告済みだ」


「はい」


 レオンは、資料を差し出す。


「しかし、改善は殿下の方針だけでは説明がつかない」


 空気が、わずかに凍る。


「何が言いたい」


「流れが整っています」


 王太子の眉が寄る。


「裏方の裁量に過ぎない」


「その裁量が、王宮の赤字を抑えている」


 感情は挟まない。


 ただ、事実を積み上げる。


「統合すれば、流れは分断されます」


「証拠は」


「過去三年分の再発率」


 資料が回される。


 数字は明確だ。


 統合後、半年以内に誤差が再発している。


「今は再発していない」


 レオンは続ける。


「削減は合理的ではありません」


 沈黙。


 王太子の指が、机を軽く叩く。


「随分と強く出るな」


「王宮の安定を優先します」


 真っ直ぐな視線。


 逃げない。


「裏方に、そこまで価値があるのか」


「あります」


 即答。


「目立たない部署ほど、崩れたときの影響が大きい」


 重臣たちが、視線を交わす。


 王太子は、しばらく黙った。


 やがて。


「……再度、保留とする」


 短い言葉。


 だが、それは事実上の撤回だった。


「追加検証を行う」


 会議は次の議題へ進む。


 だが、空気は変わっている。


 レオンは、立場を賭けた。


 王太子は、押し切れなかった。


 廊下。


「随分と入れ込むな」


 王太子が低く言う。


「合理性です」


「裏方にそこまで肩入れする理由は?」


 レオンは、わずかに視線を外す。


「流れが壊れるのは損失です」


「それだけか」


 一瞬の間。


「……それだけです」


 王太子は、わずかに笑う。


「裏方は裏方だ。忘れるな」


「承知しています」


 だが、譲らない。


 その頃。


 後方管理室では、いつも通り帳簿が並んでいた。


「……まだ正式決定は出ていませんね」


 ルークが、不安げに言う。


「ええ」


 私は、淡々と答える。


 何も知らない。


 誰がどんな発言をしたかも。


 ただ、削減が止まっていることだけは分かる。


 流れは、まだ守られている。


 それで十分だと、思う。


 だが。


 王宮のどこかで。


 「この部署は、必要だ」と言い切った者がいることを。


 私は、まだ知らない。


 静かな逆転は、

 確実に形になり始めていた。


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