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第27話 数字が動いた責任者を探せ

 王太子の執務室には、珍しく苛立ちが漂っていた。


「縮小案に異論が出ている?」


 机を指で叩きながら、王太子は側近を見る。


「軍務卿補佐室から、再検討の意見が」


「なぜだ」


「後方管理室の安定性が、現状維持に値すると」


 王太子の眉が寄る。


「たかが裏方の部署だろう」


「はい。しかし、補給関連の数値改善が顕著で」


 王太子は、机の上の報告書をめくる。


 確かに数字は改善している。


 それは自分の指示の結果だと認識している。


 だが――


「誰が動かしている」


 低い声だった。


「改善の責任者は誰だ」


 側近は、答えに詰まる。


「明確な報告はありません」


「あり得ない」


 王太子は立ち上がる。


「功績は必ず誰かのものになる」


 ならないのは、

 隠しているか、

 あるいは意図的に目立たせていないか。


「調べろ」


 短い命令。


「数字が動いた責任者を探せ」


 その指示は、静かに王宮内へと広がった。


 同じ頃。


 後方管理室。


 ルークが、顔色を変えて戻ってきた。


「……聞きましたか」


「何をですか」


「中央管理室で、“改善責任者の洗い出し”が始まっていると」


 室内の空気が、わずかに凍る。


 バルドが眉をひそめる。


「誰が言い出した」


「王太子殿下だそうです」


 私は、帳簿から目を上げる。


 予想より、早い。


「縮小案と関係が?」


「おそらく」


 ルークは、不安を隠せない。


「これ、僕たちが……」


「いいえ」


 私は、静かに遮る。


「責任者はいません」


「でも、数字は変わった」


「自然に整っただけです」


 ルークは、納得しきれない顔をする。


「自然、ではありません」


 その声には、焦りが混じっている。


「あなたが整えた」


「私は、業務をしただけです」


 嘘ではない。


 だが、今はその言い方が最適だ。


 午後。


 中央管理室から照会が届く。


 ――改善提案の提出者について。


 バルドが、私を見る。


 私は、頷いた。


「該当なしで回答してください」


「本当に、それでよいのか」


「はい」


 目立てば、標的になる。


 今はまだ、その段階ではない。


 だが、夕方。


 別の噂が流れ込んできた。


「……リリアーナ様の名前が、上で出たらしいです」


 ルークの声が、わずかに震える。


「元婚約者、という形で」


 胸の奥が、わずかに冷える。


 利用するつもりだ。


 功績を奪うか、

 あるいは責任を押し付けるか。


 どちらにせよ、静かでは済まない。


「……どうしますか」


 ルークが、真剣な目で見る。


 私は、ゆっくりと息を吐いた。


「何もしません」


「でも――」


「今は、動かない」


 焦るのは簡単だ。


 反論も、弁明も、出来る。


 だがそれは、相手の土俵に乗ることになる。


「流れを整えます」


 それだけ。


 外が騒がしくなっても、

 内部が乱れなければ、崩れない。


 夜。


 私は、一人で帳簿を閉じる。


 名前が出た。


 それは、避けたかった事態だ。


 だが。


 逃げるつもりはない。


 静かに整えてきた流れは、

 今、初めて試されている。


 その頃、軍務卿補佐室。


「王太子が動いた」


 部下が報告する。


「責任者の特定を急いでいる」


 レオンは、ゆっくりと椅子にもたれた。


「……早いな」


「どうされますか」


 彼は、窓の外を見つめる。


「流れを壊させるわけにはいかない」


 短い言葉。


 だが、その声音は明確だった。


 静かな逆転は、

 いよいよ公の場へと引き出されようとしている。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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