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第24話 後方管理室は、視察対象ではないはずだった

 軍務卿補佐官レオン・ヴァレンティが再び後方管理室を訪れたのは、三日後のことだった。


 前回は視察という名目だった。


 今回は違う。


「確認したいことがある」


 扉を開けて入ってきた彼は、前置きもなくそう告げた。


 室内の空気が、わずかに張る。


 ルークが小さく背筋を伸ばすのが分かる。

 バルドはいつも通りの顔を保っている。


 私は、帳簿を閉じて立ち上がった。


「どのような確認でしょうか」


「補給関連の処理経路だ」


 レオンは、まっすぐこちらを見る。


「三ヶ月前と比べ、差し戻し率が八割減少している」


「そうですか」


 私は、表情を変えない。


「理由を聞きたい」


 問いは短い。


 責める響きはない。

 だが、逃げ道もない。


「通常業務の範囲内です」


 私は、静かに答えた。


「確認の精度を上げ、記録を整理しました」


「それだけで、ここまで変わるか?」


「変わります」


 即答だった。


 レオンの眉が、わずかに動く。


「根本的な規定は変えていない」


「はい」


「担当者も、ほぼ同じだ」


「ええ」


「ならば、何が違う」


 私は、一瞬だけ考える。


 隠すことは出来る。

 だが、この人には通じない。


「流れです」


「流れ?」


「処理の順番を整えました」


 私は、棚から一冊の帳簿を取り出す。


「以前は、表で止まった書類がまとめて回ってきていました」


「それを?」


「小さく分散しました」


 レオンは、帳簿を受け取り、目を通す。


 目線の動きが速い。

 理解している。


「……目立たない修正だ」


「目立たせる必要がありませんでした」


 その言葉に、室内の空気がわずかに変わる。


 レオンは、帳簿を閉じた。


「なぜ、報告しない」


 核心。


 ルークが息を呑む。


「功績になる」


「功績は、必要ありません」


 私は、視線を逸らさない。


「必要なのは、滞りのない流れです」


 沈黙が落ちる。


 レオンは、数秒間、私を見つめた。


 測るように。

 疑うように。

 だが、否定はしない。


「あなたは」


 彼は低く言う。


「何を守っている」


 意外な問いだった。


「守っている?」


「後方管理室を、目立たせないようにしている」


 私は、ほんのわずかに目を細める。


「ここは、表に出ない方が機能します」


「なぜ」


「手柄の争いが起きないからです」


 レオンの視線が、深くなる。


 理解した顔だった。


「……なるほど」


 彼は、ゆっくりと頷く。


「あなたは、壊さないやり方を選んでいる」


「そうです」


 それだけ。


 長い説明はいらない。


 レオンは、扉の方へ歩きかけ、足を止めた。


「後方管理室は、視察対象ではないはずだった」


「はい」


「だが、今後は違う」


 その言葉に、ルークが顔を上げる。


「目立たせるつもりですか」


 私が問い返すと、レオンはわずかに口元を緩めた。


「必要以上にはしない」


 曖昧な答え。


 だが、敵意はない。


「ただ、壊されないようにはする」


 それだけ言って、彼は部屋を出ていった。


 扉が閉まる。


 数秒間の静寂。


「……守るって、言いましたよね」


 ルークが小声で言う。


「ええ」


 私は、帳簿を開き直す。


 波は確実に大きくなっている。


 だが、今のところ――


 それは、嵐ではない。


 後方管理室は、

 本来視察対象ではないはずの部署。


 けれど今日、

 初めて“選択肢”として見られた。


 それが、次の物語の始まりだった。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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