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第8話|自動保存の範囲
朝、編集途中だった文書を開くと、
前日の作業内容がすでに反映されていた。
保存した記憶はない。
終了時、確認のダイアログも出ていなかった。
画面の隅に、小さく
「自動保存:有効」と表示されている。
変更履歴を開くと、
保存時刻は定時を過ぎた後になっていた。
端末は、その時間には閉じられている。
差分は正しい。
語句の修正も、改行の位置も、
自分の癖と一致している。
だが、その作業をした感触だけが残っていなかった。
昼前、同じ文書に別の更新が入った。
文面は変わらない。
体裁も同じだ。
更新理由の欄には、
「整合性維持のため」とだけ記録されている。
誰が維持したのかは分からない。
何と整合させたのかも書かれていない。
午後、別の文書を閉じようとしたとき、
「未保存の変更があります」という表示が一瞬だけ出た。
すぐに消えた。
その文書は、
すでに保存済みとして一覧に並んでいる。
定時処理が走り、
自動保存の対象範囲が更新されたという通知が残った。
対象は「業務関連文書」。
除外条件は記載されていない。
彼は端末を閉じた。
書いたはずの内容は残り、
書いた記憶だけが残らない。
帰宅後、
何気なくメモ帳を開くと、
見覚えのない一文が追加されていた。
それは削除できた。
削除ログも、きちんと残った。
自動保存の範囲には、
含まれていなかったらしい。




