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第36話|想定外の不存在

朝、起動音のあとに

短い表示が一瞬だけ現れた。


「想定外は検出されませんでした」


通知はそれだけで消える。

詳細は開けない。

履歴にも残らない。


彼は業務一覧を確認する。

全件が「完全適合」の状態にある。

色分けも強調もない。


午前中、ひとつの案件で

入力値がわずかに空欄のまま送信された。

以前ならエラーになったはずの項目だ。


だが画面は進行する。

空欄は自動的に補完され、

完了画面が表示された。


昼前、新しい担当者が言った。

「システムが全部見てくれてますよね」


彼は画面を見たまま、

否定も肯定もしなかった。


午後、基準文書を検索する。

「想定外」という語は見つからない。

代わりに、「包括的適合」という章が追加されている。


夕方、ログを確認する。

全件が同一形式で記録され、

警告欄は空白のままだ。


定時、端末を閉じる。


想定外は発生していない。

発生していないことが、

記録される。


何が想定されているのかは、

どこにも示されないまま。

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