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第31話|例外の記憶
朝、業務一覧の最下部に、
見慣れない区分が一行だけ追加されていた。
「参考履歴:非表示」
クリックはできない。
展開もされない。
ただ、件数だけが数字で示されている。
彼は一瞬、
かつて例外と呼ばれていた案件のことを思い出した。
判断が止まり、
確認が往復し、
理由が記録されていた時期があった。
だが、その詳細を辿る方法は見つからない。
午前中、処理は安定している。
基準は明確で、
全件が適合する。
昼過ぎ、新しい担当者が
「非表示って、何が入ってるんですか」と尋ねた。
彼は画面を見たまま答える。
「今は使われていない分類だと思う」
確認はしなかった。
午後、基準文書を検索する。
例外という語は見つからない。
代わりに、「自動補正」という章が増えていた。
夕方、ログを確認する。
件数は朝と変わらない。
内容は表示されないまま。
定時、端末を閉じる。
例外は、発生していないことになっている。
だが、件数だけが残っている。
何が起きたのかではなく、
何も起きなかった形式だけが保存されている。




