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第29話|問いを持たない判断

朝、判断が必要な案件が一件、一覧に追加されていた。

分類は明確で、選択肢も二つしかない。

過去の類似事例も十分に揃っている。


彼は画面を見ながら、

かつてなら自然に立ち上がっていた

確認や補足の感覚が湧いてこないことに気づいた。


条件は満たされている。

手順にも矛盾はない。

判断は、問題なく下せる。


実際、その判断は正しかった。

エラーは出ず、

後続の処理も滞らない。


昼過ぎ、新しい担当者が

別の案件で同じ判断を行った。

迷いはなく、

処理は即座に完了した。


理由は聞かれなかった。

説明も求められない。


午後、ログを確認すると、

判断の項目には

「基準適合」とだけ記録されている。


かつて存在していた

補足欄や確認履歴は、

最初から無かったかのように見えた。


定時、端末を閉じる。

今日は、いくつもの判断が行われた。

だが、問いは一つも発生していない。


判断が軽くなり、

その軽さを

誰も異常だとは思わなくなっていた。

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