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第28話|思い出されなかった問い
朝、業務はいつもより早く始まった。
起動音は同じで、表示も変わらない。
だが、一覧の一番上に、見慣れない表示があった。
「参考:該当なし」
どの案件にも紐づいていない。
警告でも、通知でもない。
ただ、そこに置かれている。
彼はマニュアルを開いた。
該当する説明はない。
検索しても、関連項目は出てこなかった。
昼前、新しい担当者が作業を終えた。
処理は正確で、滞りもない。
その表示に、誰も触れなかった。
午後、彼は一瞬だけ、
以前なら問いになっていた違和感を思い出しかけた。
だが、それが何だったのかまでは思い出せない。
一覧は整理され、
不要な余白は削除されている。
問いが入る場所は、もう用意されていなかった。
定時、端末を閉じる。
「参考:該当なし」の表示は、
最後まで残っていた。
それが何を指していないのかを、
誰も確認しないまま。




