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第27話|問いを知らない人
朝、新しい担当者が一人、一覧に追加されていた。
名前の横に、
「研修完了」
と表示されている。
彼は簡単な引き継ぎを行った。
画面の見方、
処理の流れ、
判断の手順。
説明は短く済んだ。
質問は出なかった。
昼前、
新しい担当者が一件の処理を終えた。
確認も早く、
迷いもない。
完了画面を見て、
彼は一瞬、
説明欄を探した。
そこには、
何もなかった。
昼過ぎ、
基準文書を一緒に開く。
内容は整理されている。
余白が多い。
「分かりやすいですね」
と、新しい担当者は言った。
何が省かれているのかを、
知らない。
午後、
少し複雑な案件を渡す。
判断は問題なく通る。
再確認も求められない。
彼は聞いてみた。
「迷わなかった?」
新しい担当者は、
少し考えてから答えた。
「迷う要素が、ありませんでした」
定時前、
業務一覧は安定している。
滞りはない。
彼は端末を閉じた。
問いが消え、
履歴も消え、
その不在が
前提になっている。
帰り際、
新しい担当者が言った。
「この仕事って、
分からないことが残らないんですね」
彼は、
返事をしなかった。




