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余命少ない私は、“命喰らい”の異能のお医者様と契約結婚しました。  作者: 夏灯みかん
【2章】同居生活の始まり

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7.同居に向けて、お買い物

 結婚届を出した翌々日の日曜日。

 私は朔弥さんとまた二人で、街へ出ていた。

 来週からの朔弥さんのお宅での同居に向け、買い物に行くことになったのだ。


「どのテレビが、いいと思います……いいと思う?」


 木目のキャビネットがずらりと並ぶ売り場。そのすべての画面には、お相撲中継――土俵を押し合う力士の姿が映っていた。力士の映像に囲まれながら、朔弥さんは少し居心地悪そうに私に聞いた。まだですます調はなかなかとれないみたいで、時々言い直しが入るのがおもしろい。


「本当に買っていいんですか? 朔弥さんが不必要なら、買わなくていいんですよ」


 朔弥さんは家にテレビがないと言っていた。

 騒がしいのが嫌いなのかもしれない。

 わざわざ私のために買ってもらうのも、居心地が悪い。


「いや、凛さんが必要なら、買おう」


「新婚さんですか?」


 その時ネクタイ姿の販売員の男性が私たちに声をかけてきた。


「――はい。テレビを探してるんです」


 朔弥さんが頷くと、販売員さんは「待っていました」とばかりに早口で話し始めた。


「こんなリモコン式の最新型が人気ですよ。座ったままリモコン操作ができるんです」


「リモコン……?」


 販売員さんはテレビからのびたコードに、ダイヤル式の操作盤がついているものを朔弥さんの手に渡す。


「新婚生活を始める、素敵なご夫婦にぴったりですよ! 『最初が肝心』って言いますからね!」


「人気なんですか。では、これに……」

 

 私は、そのテレビの値段を見て、わぁと呟いた。お値段がお高い。

 私は慌てて、二人の間に割って入った。


「普通の、ダイヤルので大丈夫ですよ、朔弥さん」


「いえ、でも、せっかくなので」


「そうですよ、奥さん。せっかくですから!」


「――ダイヤルので、結構です」


 私がにっこりと笑って言うと、店員さんは「はぁ」とため息をついて呟いた。


「しっかりとした奥様ですね」 

 

 ***


 朔弥さんが宅配伝票を書いている間、私はレジの近くのベンチに腰掛けて、息を吐いた。

 金曜日に続き、外出をしたせいかしら。

 疲労感で体が重い。


 ――血を吐いたり、咳き込んだり、そういう症状はないけれど、確実に身体がおかしくなっているのは、わかる。


「――凜さん、来週の水曜には配送してくれるそう――大丈夫ですか?」


 朔弥さんは慌てた様子で駆け寄ってきた。


「……大丈夫です。ありがとうございます。来週――朔弥さん、受け取れます?」


「……はい、僕は仕事だけど、家政婦がいるから――顔色、悪いですよ」


 朔弥さんは腰を落とすと、心配そうに私の顔を覗き込んだ。


「ちょっと、疲れただけですから、しばらく座っていれば……」


 朔弥さんは心配そうな顔のまま、周りを見回した。

 ガヤガヤとしたお店の中、販売員さんたちの声とお相撲の中継の盛り上がった声が響き渡っている。


「もう少し、静かなところに移動しよう。ここじゃ、休まらないでしょう」


 朔弥さんはその場に腰を落とすと、私に背中を向けた。


「――どうぞ」


「え?」


 背中に、どうぞという意味なのかしら。

 私は硬直した。


「背中に、ですか?」


「はい」と朔弥さんは頷いた。

 当然の申し出に、私は言葉に甘えてよいものかと悩んだ。

そんな様子を見た朔弥さんは、ひとこと付け足した。


「――『LL計画』です。気になさらず」


「……」


 私は呆気にとられて頷くと、そのまま朔弥さんの背中におぶさった。

朔弥さん「よいしょ」と言って立ち上がると、私をかついですたすたと歩きだした。

周りのお客さんたちが、何事かという表情でこちらを見るので、恥ずかしくなって背中に頭をくっつけた。ひょろりと長い印象のあった朔弥さんの背中は思いのほか広かった。


 朔弥さんは私を担いだまま、近くの公園に移動して、ベンチに私を降ろした。

 青空に葉桜の緑とピンクが風に揺れていて、息が吸えた気がした。


「――ありがとうございます。重かったですよね、すいません」


「全く、問題ない」


 朔弥さんはまた角ばった口調で首を振った。

 私は笑ってしまう。


「朔弥さん、意外と力持ちなんですね」


「意外と、というのは――」


 朔弥さんは、少しショックを受けたような顔をしたので、私は慌てて首を振った。


「いえ――ちょっとドキドキしてしまいました」


「ドキドキしましたか」


 朔弥さんは今度は赤面した。

 私はくすくすと笑った。


「『LL計画』成功ですね」


 朔弥さんはもっと顔を赤くした。

 たぶん、あれは、私が気にしないように言ってれたのだと思う。

 朔弥さんはとても気遣いをしてくれる、優しい人だ。


「さっきも、私、『奥さん』って呼ばれちゃいましたよ。照れてしまいました。」


 先ほどの家電屋でのことを思い出してそう言うと、朔弥さんは私のベンチの隣に腰掛けて頭を掻いた。


「家電の店に行くのは初めてで、頼りなくて、恥ずかしいな」


「受け取り、大丈夫ですか? 私が使わせてもらうのですから、自分で受け取りますよ」


 そう言うと、朔弥さんは「大丈夫だよ」と頷いた。


「うちには家政婦さんが――花江さんというのだけど――いるから、問題ないよ」


「その花江さんという方は、ずっとお家にいるんですか?」


 「うん」と朔弥さんは頷いた。


「僕が12歳の時、父が亡くなったんだけど――花江さんは、それ以来、住み込みで住んでる家政婦さんなんだよ」


 朔弥さんは言いにくそうに言葉を続けた。


「そのことも、凜さんに相談しようと思ってたんだけど」


 声を低くひそめる。


「――花江さんは、森崎さんたちに、僕らのことを報告するはずなんだ」



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