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余命少ない私は、“命喰らい”の異能のお医者様と契約結婚しました。  作者: 夏灯みかん
【2章】同居生活の始まり

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6.作戦名は“LL計画”

「――結婚しましたね」

「しましたね」


 朔弥さんの住んでいる市の窓口で婚姻届けを出した後、私たちは市役所の横にある喫茶店に入って、お昼ご飯を食べていた。窓口の机に紐でくくりつけられたボールペンで、届け出用紙に必要事項を書いて、窓口に出したところ、古びたゴム印を『バン』と押されて、私たちはあっけないほど簡単に夫婦になった。


「迎えに来てくださって、ありがとうございます。母以外の人と出かけるのは、本当に久しぶりなので、のびのびした気分です」


 真っ白なホイップが乗ったアイスコーヒーを赤白ストライプのストローで吸ってから、朔弥さんにお礼を言った。

 今日は私の家の玄関まで、朔弥さんが車で迎えに来てくれたのだ。

 家族――主にお母さん以外と出かけるのは、本当に久しぶり。

 週に1回通っている絵画教室に1人で行く以外は、ほとんど家にいるし。


「それは、良かった」


「朔弥さんは、今日はお休みだったんですね」


 病院の仕事が忙しいと聞いていたので、平日の昼間に一緒に役所に行けるとは思っていなかった。


「せっかくなので、一緒に窓口に出しに行った方がいいかなと思いまして。実は――しばらく、休みをとるように言われているんです。『新婚だから』と」


 朔弥さんは言葉を選ぶように言った。


「なので、これからはしばらく、家にいることが多くなると思います」


 私は首を傾げた。


「――誰に、言われてるんですか」


「森崎さん、たちですかね」


 「結婚するように言われて」「休みをとるように言われて」

 朔弥さんは、誰かに追い立てられているようだ。

 この人の身に何が起こってるんだろう。


 朔弥さんはコーヒーを一口飲んでから、気合を入れるように切り出した。


「――それで、同居は、来週からでよいでしょうか」


「同居、するんですよね」


「はい。すいません」と朔弥さんは頭を下げた。


「違うんです。嫌とかではなく、いろいろと目まぐるしくて。頭がついていかないので、確認の意味で聞いただけです」


「それは、そうですよね」


 私は頷く。本当に、2週間前にお見合いして、あっという間に入籍してしまった。

 余命数年で結婚できると思っていなかったので、まだ現実に頭が追い付いていない。

 結婚といっても、形だけではあるけれど。

 それでも、結婚をして実家を出ると言う経験ができると思うと、ワクワクする。


「お願いがあるのです」と朔弥さんは私を見つめた。


「できるだけ、――僕と凜さんが、夫婦として、うまくいっているように見えるように過ごしてもらいたいんです」


 その真剣な表情に、私はまた首を傾げる。


「誰に、見せたいんですか?」


「森崎さんとか――そのあたりの方に」


 森崎さん。私は声の大きい厚生局のお父さんの上司を思い浮かべて、苦笑した。


「森崎さんって、朔弥さんの何なのですか」


「――後見人、のような方ですね」


「朔弥さんのお父さんは森崎さんの旧友だったとお聞きしています」


「そうですね。そのような関係でした」


 なんだかふわふわしていて、余計分からなくなるけれど――それらしい嘘を言えないのが、朔弥さんの誠実なところだ。


「詳しい事情は教えてもらえないのですか?」

 

 そう言うと、朔弥さんは困惑した顔で口ごもってしまった。


「――秘密ですか? 夫婦なのに?」


 少し意地悪そうにいってみると、朔弥さんは本当に狼狽えたような表情をした。


「冗談ですよ。言えないことなのでしょう。朔弥さんは私が困ることだったらきちんと言ってくれると思うので、私の知らなくてもいいことでしたら、大丈夫です」


 朔弥さんは逡巡してから、話し出した。


「――言っても、信じてもらえないか――、頭がおかしいとでも思われそうで。自分で言っていても、正直、突拍子もないと思うのですが。僕は、……政府に管理されてるんです」


 私は口を開けた。予想外の返答だった。


「――冗談ではなく?」


 朔弥さんは苦笑しながら「事実なんです」と頷いた。


「――大熊猫(パンダ)みたいなものですね、それこそ。継宮の血筋を、どうしても残したいんです。あの人たちは」


 そんな話があるだろうか。

 朔弥さんは病院で働いている優秀なお医者さんだけれど、普通の人なのに。

 

「『30歳で死ぬ』って言っていたのと、関係ありますか?」


 お見合いの席で朔弥さんはそう言っていた。

 全く病気であるようには見えないけれど、朔弥さんの特殊な点といえば、そこだ。


「――はい、そういう血筋というか。――だから、結婚して血筋を残せと言われていまして」


「例えばすごく特殊な体質とか、そういうことですか?」


「――そうですね。そのようなものです」


 朔弥さんは頷いた。


「けれど、僕はこの血筋を残す気はありません。――なので、結婚するだけして、死ぬまで乗り切りたいのです。その間に、石心症の治療方法を確立できれば、何も思い残すことはありませんので」


「私が結婚しないと言ったら、どうするつもりだったんですか」


 さくっとお見合い話が進んだだからよかったものの。

 結婚しないと言った場合、どうなっていたのだろう。


「お金を払って、どなたかを雇う――などしかなかったかもしれません。だから、」


 朔弥さんは私に頭を下げた。


「結婚してくれて、本当にありがとうございます」


「こんなに事情を話してしまって大丈夫ですか? そういうのって、誰かに監視されていたりしないんですか?」


 朔弥さんは、諦めたような顔で微笑んだ。


「家の外なら、大丈夫です。僕は模範的なので、そこまでされてはいないです」


「家の中は――だめなんですか?」


「そうなんです。――なので、同居にあたり、事前に打ち合わせを、何回かしたいと思っています」


 私は不謹慎だけれど、少しどきどきした楽しい気持ちになってきた。


「なんだか、ドラマの探偵のようですね。――仲が良く見えるように、しないといけないんですよね?」


「そうしてもらえると、ありがたいです」


 私は朔弥さんを見つめると、笑った。


「『らぶらぶ計画』ですね」


「『らぶらぶ計画』……」


 繰り返されて、私は顔を赤くした。ふざけて言ってしまったけれど、くすぐったい。


「――名前、気に入りません? ほら、こういうのって何か名称があった方がいいかと思いまして」


「それは確かに、その通りですね」


 朔弥さんは頷いてから、顔を赤くした。


「しかし、少し気恥ずかしいです。――すいません」


「確かに、私も言い出して何ですが、ちょっと恥ずかしい気がしました――」


「いえ、名称は確かにあると、やりやすいです。素晴らしい提案だと思います」


「――『LL計画』でどうでしょうか」


「LL」


「『LoveLove』の頭文字です」


 発音がいいわ。朔弥さんの真剣な表情を見て、私は噴出した。


「――良いと思います。LL計画で」


 ふふふと笑いながら、私は朔弥さんに向き直った。


「では――まず、最初の計画として、話し方を検討しましょう」


「話し方……」


「朔弥さん、とっても丁寧な口調なんですもの」


「もう少し、くだけた感じで、という意味でしょうか」


「お友達に話す様に、私にも話してみてもらえますか」


「……友人がいないもので」


「私もいないのですけど」


「とりあえず、ですますはいらないですよ。私の方が年下なんですし」


「そうですか――そうか」


 朔弥さんは「こほん」と咳払いして、私を見つめた。


「では、凜さん。食後にデザートはどうだろうか」


 ずいぶんと角ばった言い方に、私は笑いを堪えきれなくなって口元を抑えた。


「その口調でずっとお話されると、私、お腹が痛くなるかもしれません」


そう言って笑ったら、朔弥さんは、今までで一番困った顔をしていた。



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