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余命少ない私は、“命喰らい”の異能のお医者様と契約結婚しました。  作者: 夏灯みかん
【4章】秘密

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27.祖母からの告白(2)(side朔弥)

「何ですか?」


「私の寿命があとどれくらいあるか、あなたには見えるでしょう」


 朔弥はたじろいだ。

 花江は自分の能力について、ある程度は知っていると言っていた。

 ――ということは、寿命が『見える』ということも知っているはずだが、ここでそんなことを聞かれるとは思っていなかった。


「はい。見えます―――が」


「あと、何年あります?」


「あと、15年ほど、です……」


 朔弥の返事に、花江は微笑んだ。


「これはね、あなたのお父さんの彰仁(あきひと)さんが、私にくれた寿命なの」


「――え?」


「 16年前、あなたが12歳の頃ね。私は病気で余命数か月と宣告されていたの。――それで、透子のことを調べ直して、あなたたちの家の事情を知って、彰仁さんに会いに行ったわ。彰仁さんが透子を騙していたんじゃないかって、死ぬ前に、恨み言のひとつでも言おうと思って」


 花江の声は、震えていた。


「けれど、会った彰仁さんは、痩せ細って、今にも死にそうな姿だったわ。『透子のところへ行きたい』と告げて……私に寿命を託して、静かに息を引き取ったわ。最後に、あなたのことを見守ってくれと言い残してね」


花江は目を閉じ、当時を思い出すように息を詰めた。


「……その直後よ。森崎さんたちが駆けつけて、口止めされたのは。――力を使うと、お役人さんたちはすぐわかるのね」


 朔弥は絶句した。

 父親の彰仁は、ある日突然死んだ。

 前日までは、確かに、30年ほどの寿命が見えていたはずなのに、ある日突然、死んでしまった。森崎に夜に起こされて、居間に行ったら、政府の関係者に囲まれて、死体になった父親がいたのだ。


 今のいままで、父親の身に何が起きたのか、わからなかった。

 ただ、彰仁は、朔弥の記憶の限り、精神を病んで働きもせずずっと酒を飲んで家にいるような状態であったから、誰か適当な相手に寿命を与えるなどして、勝手に楽になったのだと思っていた。

 ――まさか、花江に寿命を与えて死んでいたとは。


「そのあと、森崎さんから説明と、口止めを受けたわ。人の命を人から人へ移すなんて、信じられなかったけれど、お医者さんに行ったら、病気の進行が止まっていて――継宮家の力を信じるしかなかった」


 驚いて目を大きく広げる朔弥を見つめて、花江は口調を強くした。


「私の時間は、あなたのお父さんがくれたものだから。あなたに返すわ。凛さんと、もっとずっと、一緒に暮らしていきなさい」


 朔弥は即座に首を振った。


「僕があなたの寿命をもらうと――あなたはその場で死ぬんです。僕の力は、その人の命を全て奪い取るものです」


 それから、声を大きくする。


「自分の寿命を全て与えて、自分は死んで、後は知らないと言うのは、無責任だと思いませんか。命の押しつけ、エゴですよ。あなたも、父に寿命を押し付けられて、そうは思いませんでしたか? あの人は、勝手に逃げたんですよ、あの世に」


 朔弥は俯くと、呟いた。


「僕が生きていてほしいのは、あなたもです。花江さん」


「朔弥さん」


「凜さんは、僕が必ず治療します。――その後、僕が死んだあと、凛さんもいろいろ困ると思うから、支えてあげてくれませんか。遺産分与などについては、既に文書をまとめてありますので、旅行から戻りましたら、詳しくお伝えしますので」


「――強情な子ですね、朔弥さんは」


 朔弥は俯いた。

 花江は立ち上がると、部屋の脇に置いてあった旅行鞄を朔弥の前に出した。


「旅行鞄が押し入れにあったので、出しておきましたよ」


「――ありがとうございます」


 頭を下げた朔弥に、花江は着物の袖から、写真を2枚取り出して、差し出した。


「これを、あなたに」


 その白黒の写真を見た朔弥は目を広げた。


 1枚は、若い頃の父親と女性の写真だった。

 どこか観光地なのだろうか。後ろに土産物店のような店と海が見える場所で、二人が並んで笑顔で笑っている。


 もう1枚は、父親と映っているのと同じ女性の、もう少し若そうな写真だった。

 ――背景は、帝都病院の門。

 堅い表情で、カメラを睨みつけるような視線をしている。


「これは、母さんの写真ですか?」


「そうですよ。あなたのお母さんの透子の写真です。――お父さんと一緒に映っている1枚は、透子が私への手紙に同封したもの。もう1枚は、私が元夫にもらった、病院を退院した時の写真です。やっぱり、あなたは透子の顔を知らなかったのね……」


 朔弥は頷いた。


「――こんな顔を、していたのか」


 写真の中の母の瞳が、自分をまっすぐ見つめ返してくるようで、胸が締めつけられた。これまで“母親”はただの言葉に過ぎなかったのに、初めて血の通った存在になった気がした。

 

 朔弥は母の姿を知ら鳴った。母の写真は家には1枚もなかった。

 母親の透子は、「母体」として、父親に引き合わされた女性で、短い結婚生活だったと認識していた。だから、写真などは撮らなかったのだと、思っていたけれど。


「彰仁さんと一緒の透子は、すごく、幸せそうでしょう。同じ子とは思えないくらい」


 花江は写真の中の娘を指で撫でた。


「私の元の旦那は、透子が発病すると、病院に入院させたきり、面会にもあまり行かなかったそうです。――私は、それさえ知らなかった。世間体ばかり、大事にする人でしたからね。透子は病院でずっと一人きり。寂しかったでしょう」


 花江は写真の中で、夫と腕を組んで笑う娘を見つめて微笑んだ。


「けれど、この写真の幸せそうなこと。『優しい顔になったから、子どもは女の子に違いない』なんて思いこんで、言うはずだわ。……短い間でも、彰仁さんと透子の間には、幸せな時間があったのでしょう」


「……写真を、ありがとうございます。――おばあさん」


 頭を下げた朔弥に、花江は苦笑しながら言った。


「“おばあさん”なんて呼ばないで。急に老け込んでしまいそうだわ」


 花江は小さく笑みを浮かべた。


「私は雇われた家政婦として――これからも、あなたと凜さんを見守らせてもらいたいと、思っています」 


 そう言って仏壇に一礼する花江の背中は、今までずっと、自分を見守ってくれて来た家族の背中だった。朔弥は「わかりました」と頷いた。


「旅行を楽しんできてくださいね」


 そんな朔弥に、花江は旅行鞄を静かに手渡した。



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