26.祖母からの告白(1)(side朔弥)
凜と一緒に音楽番組を見ていると、不意に「朔弥さん、凜さん」と花江の声が聞こえた。
「花江さん! どうされたんですか? もうお休みになったかと思っていました」
凜が驚いたように振り返る。
花江はまだ日中と同じ着物姿のままだった。
「いえ、休む前に旅行鞄の場所を思い出しまして――ちょっと探していたんですけれど。見つけたので、ご報告にと思いまして」
「それは、ありがとうございます……明日で大丈夫だったのに」
朔弥は頭を下げた。
「いえ、それで、ちょっと、それでいいか朔弥さんに確認してもらいたいのですけれど」
突然の申し出に、朔弥と凛は顔を見合わせた。
夜中に花江がこんなことを言い出すのは、珍しいことだった。
「凜さんは、ちょっとお待ちになって」
花江に制止されて、凛ははっとしたような表情になって、頷いた。
「――わかりました?」
疑問符を浮かべながら朔弥が頷くと、花江は「こちらです」と朔弥を促した。
***
暗い廊下を歩きながら、1階の奥――今は、朔弥の両親の仏間になっている和室の前で、花江は立ち止まって、静かな声で言った。
「朔弥さん、少しお話をいいでしょうか」
「はい」
「中へ、入りましょうか」
朔弥と花江は襖を開けると、仏壇のある和室へ入った。
現在この部屋は、朔弥の父と母が使っていた物の置き場所にもなっているため、部屋の半分には、バッグや雑多なものが積まれていた。
花江は電気の紐を引っ張り灯りをつけた。
それから、仏壇の前に正座をすると、手を合わせてから、朔弥を振り返った。
「朔弥さん」
「はい」
朔弥も正座をすると、背筋を伸ばして、老女を見つめた。
花江は息を吐くと、静かに語った。
「……私はね、透子――あなたのお母さんの母親です」
花江は震える声で続けた。
「今まで黙っていて、ごめんなさい」
花江の告白に、朔弥は少し俯くと、微笑んだ。
「――そうなんですね。母の関係の方だとは、思っていたんです。毎朝毎晩、父さんと母さんの仏壇を拝んでくれているのを知っていましたから。――エミリーを僕に買ってくれたのは、花江さんだったんですね」
花江は瞳に涙を浮かべると、頷いた。
「教えてくれて、ありがとうございます。長年、気になっていたことがはっきりして、すっきりしました。それから――」
朔弥は頭を下げた。
「今まで、見守ってくれていて、ありがとうございます」
その言葉に、花江は目頭を押さえた。
「やっぱり、わかっていましたか。あなたは、賢い子ですものね」
「どうして、僕に、本当のことを伝えようと?」
「凜さんに、継宮家の家系のことを、この前お話してしまいました」
花江の言葉に、朔弥は硬直した。
「――どこまで、を話したんですか?」
「彰仁さん――あなたのお父さんの兄弟の母親が全員違って、全員お亡くなりになっていること――継宮家の子どもは、男の子しか生まれず、出生時に母親が死んでいること。生まれる時に、母親の寿命を喰って生まれる、呪われた家だと、伝えました」
「……」
「けれど、凜さんは、あなたは子どもを作る気はないし、結婚は仮のものだと、教えてくれました」
「そうですね。僕は、子どもを作る気はない。継宮の血は、僕の代で終わらせるんです」
強く言ってから、朔弥は花江を見つめた。
「花江さんは、僕の力について、どこまで知っているんですか? ――森崎さんに、凜さんとの結婚は形だけだと、伝えるんですか?」
「あなたの“命喰らい”という力については、大体は知っていますが――まさか、そんなこと」
花江はぶんぶんと首を振った。
「私はあなたが、あなたの父親のように、お役人さんに言われるがまま、結婚したのではないと知って、嬉しかったんです。――そうじゃなければ、凜さんを実家にどうにかして帰したいと考えていたくらいですから。言うわけがないじゃないですか」
「――それなら、良かったです」
朔弥は花江の返答が心からの真実だと感じ、安堵して息を吐いた。
凜との結婚は形だけだと伝われば、反抗したととらえられ、また医師免許を取引にちらつかせられるか、強制的に子どもを残すような手段に出られそうで、怖かった。
(このまま、予定通り、僕の命の期限まで、生活を続けていける)
「朔弥さん、子どもは作らないとしても――あなたは、凜さんとこのまま、暮らしを続けていきたいとは、思っていないの?」
朔弥は俯くと、呟くように答えた。
「……僕は、あと2年ほどで、死ぬ予定ですよ。自分の、元々の寿命を全うして」
「――本当に? あなた、今まで私が見てきた中で、凜さんと結婚してからが、一番幸せそうなのよ……」
花江はそう言うと、朔弥を見つめた。
「――あなたにもう1つ、言わないといけないことがあるんです」




