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余命少ない私は、“命喰らい”の異能のお医者様と契約結婚しました。  作者: 夏灯みかん
【4章】秘密

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21/28

21.動物園(1)

 お昼を食べた私たちは、そのまま車で10分くらいのところにある、山の手の動物園に移動した。


「動物園は、――最後に来たのは、いつかしら」


 旅行と同じで入院する前の、小学校に入学した最初の年の遠足で来て以来の気がする。


「そうなんだね。大人が来ても楽しいよ」


 朔弥さんは私の手を引いて、まるで庭みたいにさくさくと広い園内を歩いて行く。


「今は、ちょうど触れ合い動物園の餌やり時間だから、パンダのところが空いていると思うよ」


「タイムスケジュールまでばっちりですね。頼もしいです」


 朔弥さんの読み通り、パンダの前は、人だかりはあるものの、立ち止まって見れそうな状態だった。ニュースでしばらく前に見た時は、前で立ち止まれずに通り過ぎなければいけないような状況だったから、嬉しい。


 観覧スペースの前で立ち止まると、大陸からやってきた2匹のパンダは、私たちの前でもしゃもしゃと笹の葉を食べていた。


「かわいいですね」

「かわいいね」


 朔弥さんがほくほくした顔で、それぞれのパンダを指さした。


「あっちの小柄な方が『ホワヤン』、あちらの大柄な方が『アニキ』だね」


「あ、アニキ……? そんな名前でしたっけ」


「ああ、本名は『大哥(ダーガー)』なんだけど、『大哥』はアニキという意味なので、ファンの間では『アニキ』と呼ばれてるんだよ」


 朔弥さんはにこにこしながら、説明してくれた。


「ホワヤンは、『花样(ホワァーヤン)』――花のような、という意味だね。本当に花のように可愛らしい女の子で、ぴったりの名前だ」


「――詳しいんですね」


「大学からも近いし、たまに1人でふらりと来るんだ」


 にこやかな朔弥さんの隣に立っていると、ふんわりとした幸福感に包まれる気がした。


 その時、私たちの横に、大学生らしき腕を組んだカップルが来た。

 女の子は、小花柄のふんわりとしたワンピースに、斜めがけのポシェット。くたっとした麻のような布地は、まるで古着屋のラックからそのまま抜け出してきたみたいだ。二人とも、ギターを背中に背負っている。軽音部かなにかの活動をしているのかしら。


 私は自分の母親がデパートで買ってきた、白黒映画に出てきそうな自分のワンピースと見比べた。動きやすそうで、いいわね。


「昨日の『桜の散るまでに』見た? すごい、泣いちゃった」


 その時カップルの女の子が大きな声で横の男の子に話を振った。

 私は身体の芯が冷たくなるのを感じた。

 『桜の散るまでに』は、今流行っているドラマだ。

 余命半年の石心病のヒロインが桜の名所で写真を撮られながら余命を過ごすというストーリー。

 その設定だけでお腹がいっぱいで、名前を聞くのも嫌なドラマだった。


「いや、あんなベタな演出で泣くもんか、って思ったけど、俺も泣いたわ」


「ついにプロポーズしたもんね」


 女の子は、空を見ながら呟いた。


「いいなあ。綺麗なまま若くて死ねるって、ロマンチックじゃない?」


 私の頭の中に、苛立ちが走る。

 『ロマンチック』なんて言葉を使わないで。

 無責任に外から綺麗なものにしないで。

 女の子は言葉を続けた。


「あたし、27歳までには死にたいの」


「“27歳クラブ”てやつ? 海外のスターとか、わりとその年に死んでるよな」


「そ。でも、頭を銃で撃つのなんか、嫌でしょ? 病気で綺麗に死ねたら、最高」


 不快な思いが頭を駆け巡り、どくんと心臓が脈打った。

 額から一筋、冷や汗が伝い落ちる。そこから顔中に一気に汗が広がっていくのを、自分でも制御できなかった。

 心臓が締め付けられるような苦しさを覚えて、私はその場に座り込んだ。

 嫌だわ。化粧が落ちてしまう。


「うわ、顔の汗すご……」

 

 横でその女の子が驚いたような、ひいたような声を出した。

 私は彼女を睨んだ。――汚らしいでしょう、汗まみれで。

 そういうことをすると、余計に心臓が苦しくなり、私はその場に尻餅をついてしまった。


「凜さん? 大丈夫ですか?」


 朔弥さんが私の顔を覗き込む。――私は「すいません」と頷いた。


「向こうに座ろう」


 そう言うと、朔弥さんはひょいと私を持ち上げて、近くのベンチへ座らせた。


「あ、ありがとうございます。ちょっと、薬を飲みますね」


 私はバッグから精神安定薬を取り出すと、水で喉に流し込んだ。

 ――怒りのような、そういう感情が高ぶると、ああいう症状が出てしまう。

 だから、感情を穏やかにするように心がけているのに。


「気にしないで」


 朔弥さんはハンカチを出すと、私の顔の汗をトントンとたたいた。

 私は顔を背けた。化粧がとれてしまうほどの汗の量で恥ずかしい。

 自分のハンドバッグからハンカチを出すと、顔を覆った。



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