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余命少ない私は、“命喰らい”の異能のお医者様と契約結婚しました。  作者: 夏灯みかん
【4章】秘密

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20/28

20.人形を買いに、デパートへ

 次の週末、私は朔弥さんと、エミリー人形のお相手の人形を買いに、デパートへ買い物へ出かけた。


「ここの、子ども用のおもちゃ売り場ですよね……」


 花江さんによると、海外メーカー製のエミリーの相方の男の子のお人形「ベンジャミン」は、このデパートでのみ取扱いがあるというお話だった。

 エレベーターに乗って、私が呟くと、エレベーターガールが「子ども服売り場は、6階ですよ」とボタンを押してくれた。


「賑やかだね」


 おもちゃ売り場でエレベーターを降りると、朔弥さんは周囲の親子連れを見ながら、微笑ましそうに目を細めた。

 

「そうですね」


 頷きながら思う。朔弥さんはきっと、子どもが好きな人だ。

 ――頑なに、子どもはいらないと言うのはどうしてなんだろう。

 「30歳で死ぬ予定」と言っていたのも、結局よくわからない。とても、病気だとか、そういうふうには見えないけれど――。


 私は首を振って、余計な考えを頭から振り払うと、店員さんに声をかけた。


「すいません、『エミリー人形』シリーズのお取り扱いについて、お聞きしたいのですが」


「はい。お取り扱いしておりますよ」


 店員さんはにこやかに、私たちを人形のコーナーに案内した。


「こちらですね」


 棚にエミリーが座っていた。

 けれど、朔弥さんの持っているエミリーとはどこか違う。

 最近の流行なのか、目が大きく、ぱっちりとしていた。

 朔弥さんのエミリーの方が、素朴な印象だ。 


「こちらと同じシリーズはありますか?」


 朔弥さんは鞄からエミリーを取り出した。


「まあ! “クラシックシリーズ”のエミリーじゃないですか」


 ご年配の店員さんは驚いたように言うと、目を細めた。


「そちらは、かなり昔に、予約販売のみしたものですね……。懐かしいわ……」


 それから、レジの奥から英語で書かれたカタログを持ってきた。


「今も、お取り寄せはできますよ。お値段は少しお高いですけれど」


 カタログを見てみると、店頭のエミリーと桁が1つ違った。


「――こんなにするものだったんですか……」


 朔弥さんも少し驚いた様子で目をぱちぱちしている。

 カタログには、茶色い毛糸の巻き毛の男の子「ベンジャミン」の写真もあった。


「――こちら、取り寄せできますか?」


 それを指さして、朔弥さんは言った。


「せっかくなので、同じシリーズでそろえようと思って」


 やっぱり同じシリーズだと雰囲気が揃うので、その方がいいわよね。


「ありがとうございました。2週間ほどでお取り寄せできますよ」


 店員さんの言葉に、私は笑った。


「花江さんのおかげで、すぐにお相手が見つかってよかったですね。このまま動物園に行きますか?」


「――もう1つ買いたいものがあるんだ」


 朔弥さんは、私の手を取ると、少し引っ張った。

 そのまま、エスカレーター横のフロアガイドの前で立ち止まった。


「ええと、宝飾品は、2階か……」


「宝飾品?」


「指輪を、まだ買ってなかったなと思って」


 朔弥さんは少し照れたような様子で言った。


「……そういえば、そうですね……」


 私は頷いた。結婚式は結局やらなかったし、指輪もそのまま特に買わずに済ませてしまっていた。


「でも、無理に買わなくても、いいですよ」


 そう答えると、朔弥さんは首を振った。


「――買おう。お金もおろして来たし」


 ……そういえば、先ほどお会計の時、お財布が膨らんでいるのが見えた気がしたわ。


「――指輪をしていた方が、夫婦として自然だし」


 朔弥さんは「うん」と自分で言って頷いた。


「僕は凜さんに指輪を買いたい」


 私の手を握る朔弥さんの手に力が入ったので、私は微笑んだ。


「そんな風に言ってもらえると、嬉しいです。じゃあ、買いに行きましょうか」


 私たちは2階の宝飾品の売り場に行くと、シンプルなプラチナの結婚指輪を買った。

白い手袋をした店員さんが、小さなトレーに指輪を並べて差し出した。

 光を受けて静かに輝く輪を前に、私は胸の奥が熱くなるのを感じた。

 ――形だけの結婚だと思っていたのに、これは確かに“夫婦”の証なんだ、と。


「サイズ直しに1週間程度かかります」


 という店員さんの言葉に、朔弥さんは「旅行に間に合うね」と笑った。

 私たちは、来月、先週病院で会った時森崎さんに提案してもらった「新婚旅行」に行く計画を立てているのだ。


 その後、デパートの喫茶店でお昼ご飯を食べながら、私は自分の指を見つめた。


「……旅行に、指輪をつけていくのが楽しみです」


 実家で、ただそのうち心臓が固まって動かなくなる日を緩慢に待つ日々の中で、次の週末が、来月が楽しみに感じることなんてなかった。――けれど、今は。毎日、翌日が楽しみで仕方がない。


「そうだね。楽しみだ。――お金なんて、今まで使う先もないし、貯金するばかりだったけど、買い物も旅行も、贅沢するのも楽しいね」


 朔弥さんはほくほくした顔で言った。


「――朔弥さん、変な物を買わないでくださいね」


 私は少し笑ってしまった。

 朔弥さんは財布の紐が緩んでいるのか、先ほど指輪を買おうとしたときも、店員さんの「ダイヤを入れた注文品も……」という言葉に、そのまま乗せられそうになっていた。


「気をつけるよ」


 朔弥さんは「あはは」と頭を掻いてから、私を見つめた。


「凜さんと出かけると、楽しいなあ」


 私はどきりとして、目の前の緑色のソーダのシュワシュワとした泡を見つめた。

 「嬉しい」という気持ちと一緒に、今のこの生活は、この泡のような一瞬の夢のような気がして、少しだけ喪失感が頭の隅をかすめた。


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