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余命少ない私は、“命喰らい”の異能のお医者様と契約結婚しました。  作者: 夏灯みかん
【3章】新生活の日々

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18.新婚旅行の提案

 結局、それから1時間ほど私たちは小児病棟にいた。

 朔弥さんと松家先生が話している間、私は看護師の沢田さんと一緒に、大量のイラスト入りテープを量産していた。自分の描いたもので、誰かが楽しんでくれるかもしれないと思うと筆が進む。


「凛さん、花江さん。お待たせして、ごめん」


 そう言って朔弥さんが戻ってきたので、手を止めると、沢田さんがにっこりと笑った。


「――助かったわ、凜先生。これで来週1週間分くらい、もちそう」


「それは良かったです。――また描きたいくらいですけど」


 そう言うと、沢田さんは私と朔弥さんを見比べて、私の肩をたたいた。


「旦那さんがいるんだし、たまに来てよ」


「お昼になってしまったし、食堂で一緒に食事してく?」


 朔弥さんがそう言ってくれたので、私たちは連れ立って病院の食堂に行った。


 ***


 食堂に向かう途中の廊下で、私は、見たことがある背広姿の恰幅の良い男性を見つけた。

 ――お父さんの上司、私と朔弥さんのお見合い話をセッティングした、森崎さんだ。


「継宮くん、お疲れ様! 凜さんは久しぶりだね。花江さんもご一緒で、『お昼だヨ、全員集合~』なんてなあ!」


 森崎さんは相変わらずの様子で「がはは」と笑った。

 森崎さんの横には――、椅子に座った若い女の人がいる。


「森崎さん、どうしたんですか」


 朔弥さんの声が少し低くなった。


「いやね。今日は仕事じゃないんだよ。娘の検診の付き添いでね」


 森崎さんはそんな朔弥さんの様子を気にする様子もなく、横に座っている女の人の顔を見た。挨拶のためか、立ち上がろうとした彼女を、森崎さんは制止した。


「座っていなさい」


彼女は座ったまま、少し気まずそうに私たちに会釈した。――検診?


「娘の希美(のぞみ)だ。来月には孫が生まれる予定でね。どうせ仕事でしょっちゅう来てる病院だから、一緒に来たんだ」


 彼女――森崎さんの娘さんのお腹は、大きかった。


「それは、おめでとうございます」


「母子ともに順調でね、先生からも元気そのものだと言われている。――で、ついでに心臓外科に寄ったら、『継宮先生の奥さんが来てる』って看護師が話してるのを聞いたもんだからね。挨拶しようと思って」


 森崎さんは大きい声で笑って、朔弥さんの肩をたたいた。


「どうだね? 新婚生活は? 順調かい?」


 娘さんが恥ずかしそうに視線をずらした。

 朔弥さんはにっこり笑うと、私の手を急に握った。


「はい。毎日家に帰るのが楽しみで、定時退勤ですよ」


 びっくりして朔弥さんを見る。ふと視線を下げると、私の手を握った反対側の左手が”L”になっている。“LLラブラブ計画”――!

 私は朔弥さんと視線を合わせると、頷いた。

 朔弥さんの話だと、私と仲が良い様子を一番見せたいのは森崎さんのはずだ。


「お仕事がお忙しいかなと、心配していたんですけど。毎日、夜は一緒にいられて嬉しいです」


 そう言って朔弥さんの腕に抱きついてみた。

 そうすると、びくりと、朔弥さんは棒のようになってしまった。

 ――さすがに、やりすぎたような、気がするわ……?

 私も赤くなって俯く。


「そうか、それは何よりだ。結婚てのは、いいものだろう、継宮くん」


 けれど、そんな私たちを見て、森崎さんは満足したように笑って頷いた。

 対応としては――正解だったのかしら?


「結婚式はいいと言っていたのが気になってね。本当にいいのかい」


 森崎さんの言葉に、朔弥さんは微笑んだ。


「気にしていただいて、ありがとうございます。けれど――とりあえず、今は一緒に暮らせているのが楽しいので、大丈夫です」

 

 先ほどまでの少し余所行きの様子と違った、本音がにじむような言い方で、私はとても嬉しくなってしまって、朔弥さんの腕にぎゅっとしがみついた。


 森崎さんは嬉しそうにうなづくと、


「そうかそうか。だったら、新婚旅行には行ったらどうだい。結婚式もやらなかったし、豪華に行ってくるといいよ。継宮くんも、仕事のことは、局長に私からも言っておくし、気にしないで休んでいいぞ」


「お父さん、もう行きましょうよ。駐車場から車を出してきて」


 希美さんにそう言われて、森崎さんは「そうだな」と言って私たちに手を振った。


「入口につけるから、希美はフロントで待っててくれ」


 そう言って先に去って行くのを見送って、希美さんは私たちに頭を下げた。


「何だか……父がすいません……声が大きくて……」


「いえいえ、森崎さんにはお世話になっていますから」


 希美さんは申し訳なさそうに去って行った。


***


 食堂でオムライスを注文して席に着く。


「凜さん、ありがとうございます」


 申し訳なさそうな朔弥さんに、私は「いえいえ」と手を振った。 


「でも、娘さんの検診にお父さんが付き添いだなんて、仲がよいんですね?」


「――森崎さんの奥様は、3年前に亡くなっておいでなんですよ」


 ふと花江さんが口をはさんだ。


「そうなんですか……」


 朔弥さんが『花江さんと森崎さんはつながっている』と言っていたことを思い出す。

 花江さんは確かに森崎さんのことをよく知っているみたいだ。

 ――朔弥さん・花江さん・森崎さんは、どういった関係なんだろうか。


 ――それは気になるけど。


「私、旅行に行ってみたいです。――海が見たいなあ」


 森崎さんの新婚旅行の提案は、とっても嬉しいものだった。

 旅行は、発病前に家族旅行に行ったのが最後の記憶で、この病気になってから一度も行っていない。最後の家族旅行は、海に行くはずだったのに、直前で山の温泉になってがっかりした記憶があった。それからずっと海に行きたい気持ちが、心の奥にあった。――もし、朔弥さんと旅行に行って海を見れたなら、きっと楽しいだろうと思う。


「本当に! だったら、調整してみるよ」


 朔弥さんは「うん」と頷いた。


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