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余命少ない私は、“命喰らい”の異能のお医者様と契約結婚しました。  作者: 夏灯みかん
【3章】新生活の日々

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16.書籍の購入予定

 朔弥さんと私と花江さんは、連れ立って小児病棟の医局まで歩いて行った。

 古い木の床が、きしきしと鳴る。

 ――そこは、かつてここでお世話になっていた私にも、よく見覚えのある場所だった。


松家(まつや)先生、『病棟書架(びょうとうしょか)購入計画書』を持ってきたんですけど……」


 朔弥さんが顔をのぞかせると、白衣を着た松家先生が手を振った。

 

継宮(つぐみや)先生、お疲れ様。あらあら、凛さんと花江さんもご一緒なのね」


 私はお辞儀をすると、『帝都大学せんべい』の袋を渡した。


「ご挨拶できておらず、すいません。これ、簡単な物で申し訳ありませんが、お土産です」


「まあ! 嬉しい! 病院の前で売ってるのに、なかなか買いに行けないのよねえ」


 松家先生は頬を両手で挟んで目を輝かせると、袋を受け取った。


「――先生、昔からお好きでしたものね」


 私は入院していたときにたびたび目撃した、煎餅を頬張る先生の姿を思い出して微笑んだ。


「よく覚えてるわねえ。凜ちゃん」


 松家先生は目を細めると、朔弥さんを見た。


「――書類、ありがとう。忙しいでしょうに、事務作業まで申し訳ないわね」


「いえ、最近定時退勤で時間がありますので」


「来たついでで悪いけれど、購入する図書リストの確認もしてもらっていい?」


 ふと書類に描かれた書籍のリストが目に入ってきた。


『トラエモン』『白衣のクロガネ』『琥珀の仮面』『シズク・ドロップ』『おばけのP太郎』……、どれも見覚えのある漫画の本のタイトルだった。


「わ、どれも名作のセレクションですね!」


 思わずそう言うと、朔弥さんは驚いた顔をした。


「知ってる? 凜さん、漫画を読むんだっけ」


「家にさっきのリストのものは全部ありますよ」


 家の書棚の背表紙を思い出した。入院中は漫画は読めなかったので、退院後、自宅療養になってからお母さんがまとめて買ってくれたのだ。


「――朔弥さんも漫画読まれるんですね?」


 家にテレビがなかったくらいだし、そういったものに興味がないと思っていたわ。


「うん。研究に当たって読んだんだ」


「研究……そういえば『購入する図書リスト』って……」


石心病(せきしんびょう)の小児病棟にね、漫画の書架を入れる予定なのよ」


 松家先生が補足してくれた。


「今はまだこれから揃えるところだから、空き棚も多いの」


「それは、いいですね……! あそこは、子ども向けの絵本ばかりで退屈でしたから」


 私は自分の入院時代を思い出して、呟いた。

 石心病の入院病棟は、石核(せきかく)の進行を抑えるため、刺激の少ない安静環境を第一としていた。

 殺風景な部屋で、精神状態を落ち着ける薬を飲みながら安静に暮らす日々は、真綿で包まれた地獄みたいだった。


「『漫画本は刺激が強い』みたいな反対もあったんだけれどね……、逆に子どもたちの精神状態を落ち着ける効果があるって、継宮先生が実証されて、今回書架を導入してみることにしたの」


「……朔弥さんって、外科の先生ですよね?」


「専門は『石心病』だよ」


 私は目を細めた。


「――私、入院中に、学校の友達なんかとどんどん状況が離れていっちゃうのが、とても嫌だったんですよね。だから、そういう、外で流行っているものなんかに、入院中も触れられるのはとてもいいと思います」


 入院してからは、世間は『外』――自分とは全く違う世界に感じるようになった。

 それは退院して自宅生活になってからも、続いていた。


「――『卒業生』のそういう話を聞けるのは、とても参考になるわ。ねえ、凛ちゃん、病棟を見ていってみる?」


 松家先生は立ち上がった。


「いいんですか?」


「ええ、あなたが入院していたころと、大分雰囲気が変わったと思うわ」


 せっかくなので、前に暮らしていた病棟を見てみたい気持ちがあった私は松家先生のあとをついて行くことにした。


「私も――ご一緒してもいいでしょうか?」


 花江さんが何か決心したかのように言ったので、私は少し驚いて振り返った。

 朔弥さんも「僕も一緒に行きます」と言い、みんなで入院病棟の方へ行くことになった。



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