表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余命少ない私は、“命喰らい”の異能のお医者様と契約結婚しました。  作者: 夏灯みかん
【3章】新生活の日々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/28

14.人形に語ること(side 朔弥)

「ありがとうございます」


 朔弥が頭を下げると、藤巻医師は困ったように笑った。


「我々もねえ、君がいないと困るんだけど。本当はこのあとの手術準備のカンファも出てほしいんだけどなあ」


「すいません……」


 詫びて、医局を出ようとしたところで、後ろで藤巻医師と看護師が話すのが耳に入ってきた。


「……どうしてまた、石心病(せきしんびょう)の女性となん、て結婚したんだろうねえ」

「また結婚前みたいに、勤務してほしいですよね」


 継宮家の血の力の影響なのか、生まれてくる子どもは男児に限られ、出生時に母親の寿命を引き継いで生まれてくる。


 ――そのため、人道的な観点から、生み手として、余命の少ない女性をあてがうようになっていたのだ。特に、石心病は、成人してしまえば服薬もせずに済み、妊娠や出産に影響のない病気のため、結婚相手として斡旋されることが多かった。


 ――出産時に死んでしまっても、病気の影響という言い訳が立つということもある。


 朔弥の母親も石心病であったし、朔弥の父親・その兄弟たちの母親も多くは石心病だったそうだ。――そして、今回も。自分の代で血を終わらせたいと願って、結婚を拒否する朔弥に、厚生局は『医師免許の停止』をちらつかせ、結婚を迫った。森崎が間に入り、部下の娘に「ちょうどよく」石心病の娘がいるから会ってみないかともちかけた。


 ――そこで会ったのが凜だった。


 朔弥は自分の特任教授室に戻ると、書棚を開けた。

 書棚には研究資料のまとめが入っている。


(石心病の治療法は、あとは、実際の臨床のみなんだ――)


 朔弥は自分の手のひらを見つめた。

 手の周りに、他の人に見えるものと同じ、ぼやっとした命の灯が見える。

 光は弱弱しく薄かった。朔弥の寿命の残量は、あと2年。

 これは、ずっと昔から決まっていた残量だ。


 【命喰らい】には、もともとの寿命がない。

 生まれる時に、母親の寿命を喰い、母を殺して生まれてくる。

 朔弥もまた、母親の寿命を喰らってこの世に生誕した。

 

 石心病患者だった母親の寿命は、もともと数年だった。

 そこで、生まれた朔弥の寿命も、その時点では数年だった。

 だから、同じく【命喰らい】である父親が、朔弥にその時点で持っている寿命の半分を分け与えたのだ。


 余命の少ない女を生み手とする慣習になってから、父親が出生した子に寿命を与えると言うのは、継宮家の慣習となっていた。


 母親の寿命の残量と、父親から与えられた寿命を合わせて30年。

 それが朔弥の「最初の寿命」だった。

 

 それ以来、力を使って誰かから寿命を奪うことをしなかった朔弥は、あと2年ほどで寿命を使い果たし死ぬつもりだった。


(凜さんに臨床手術を受けてもらって、完治する。そうすれば、僕は心置きなく、死ねる)


 戦争が終わり、暗殺のような形での力を使うことは禁じられていたが、末期の病の患者などから、寿命をもらってはどうかという提案は何度ももらっていた。――しかし、朔弥はそれを拒否し続けていた。


(僕はもともと、この世にいてはいけない存在だし)


 それでも、せめて。生きている限りは、何かこの世に痕跡を残したい。


 そのために没頭したのが、石心病の治療法の確立だった。


 母親も石心病だったこと、学生時代に世話になった恩師の松家医師が石心病を専門とする医師だったこと。この病の治療法を研究するに至った理由は、そんな経緯だった。


「だけど、結婚したら仕事の制限までしてくるとはなあ、エミリー」


 朔弥は部屋のソファに座らせた、布製の女の子の人形を手に取ると、話しかけた。


 学生時代に女生徒に食事やらに誘われるのを避けようと、人形を持ち歩き話しかけて、変人だと思われることを思い立った。


 効果はてきめんで、これを続けたところ、誰も話しかけてこなくなった。

 ――以来、人形に話しかけるのが癖になっていた。


 病院で勤務を始めてからは、さすがに教授室の個室で話しかけるのみだったが。


「――でもね、最近は、家に帰るのが楽しみで、定時帰宅が嬉しいよ。患者さんのことは、気になるけど。手術だったら、藤巻先生とか――腕のいいお医者さんはたくさんいるしね。問題ないよな」


 エミリーに話しかけながら、朔弥は笑みを浮かべた。


「テレビってうるさいだけかと思ってたけど。なかなかに面白い番組も多いね。今日は、19時から山の手動物園の特集番組がやるんだ。凛さんの見たいものと被ってないといいけれど」


 凜と結婚する前は、家はほぼ、寝に帰るだけの場所だった。

 非常勤勤務の病棟にも毎日顔を出し、患者の寿命をチェックしながら、自主的に心臓外科以外の科の棟も見回りしていた。

 けれど、今は、家に帰宅するのが不思議と楽しみになっていた。


「さて、エミリー。――今日は、どうしようかな。研究はもう落ち着いているし、事務作業にしようか。石心病の入院病棟の書架配置の計画書を、松家先生に――あれ?」


 バッグの中をあさった朔弥は、首を傾げた。

 入れてあったはずの書類がない。

 バサバサバサとバッグの中身を全てソファの上に出して、朔弥は首を傾げた。


「エミリー……、書類がないみたいだ」


 机の下まで覗き込み、引き出しを開け、ソファのクッションまでひっくり返す。


「……これは事件かもしれない」


 エミリーに話しかけたそのとき、「ふふふ」と笑い声がして、朔弥は驚いて顔を上げた。

 特任教授室の扉のところに、笑いをこらえる凛と呆れ顔の花江が立っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ