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余命少ない私は、“命喰らい”の異能のお医者様と契約結婚しました。  作者: 夏灯みかん
【2章】同居生活の始まり

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10/28

10.夜

 それから、スーパーで卵を買って来て昼にオムライスを作った。

 食後は荷物の片付けに取り掛かり、夕食は花江さんが作ってくれた、どこか懐かしい定食。

 気づけば窓の外は夜の色に染まっていた。


「凛さん、お風呂が沸きますけれど、お手伝いは必要ですか?」


 と花江さんに声をかけられて、私は背筋をぴしっと伸ばした。

 お風呂は事前に見せてもらっていた。

 古い洋館ではあるけれど、入浴設備は新しくされているようで、問題なく入れそうだった。


「――大丈夫です。1人で入れますよ」


 私は朔弥さんを見た。


「僕は後でシャワーだけ使いますので、先に入ってください」


 そうにこやかに言うけれど、私としては緊張する。

 化粧を落とした顔を、朔弥さんに見せたことはない。

鏡の中の自分を想像して、小さく息を吐く。

でも――これから一緒に暮らすのだから、いつまでも隠してはいられない。

それでも、少しだけ勇気がいる。

 

 脱衣所の冷たい床に素足を置くと、心臓の音が一段と大きくなった

 顔と髪と身体を洗い、湯船につかった。

 お風呂から出て、パジャマに着替え、鏡を見る。


 入浴後とはいえ、青白い顔をしていて、ため息を吐きたくなった。

 

 リビングに戻ると、朔弥さんは1人でお茶を飲みながらテレビを見つめていた。

 自然の動物の生活を静かな解説で説明する番組がやっていた。

 なんだか、とても「らしい」番組を見ているなと思って、私は微笑んだ。


「朔弥さん、お風呂あがりましたよ」


 そう言うと、朔弥さんは驚いたように振り返った。


「不便ありませんでしたか?」


「問題ありません」


「そうしたら、寝室をご案内しますね」


 テレビを消した朔弥さんの後をついて、2階に上がる。

 2階の和室を寝室として使っているようだ。


 部屋に入ると、布団が二つ、部屋の端と端に敷いてあった。


「……ずいぶんと、離れていますね」


「花江さんが敷いてくれたので、先ほど、移動しました」


 朔弥さんは、視線を動かしながら言った。

 私は朔弥さんが布団を引っ張って移動する姿を想像して笑った。


「お気遣い、ありがとうございます」


 そう言うと、朔弥さんはぶんぶんと首を振った。


「一応、寝室は同じにしておかないと、という事情に付き合わせてしまって、すいません。僕も後程すぐ戻ってくるから、もし眠かったら先に横になってて」


「――そうさせてもらいます」


 私はそう言って、布団に横になった。

 ――かといって、緊張して眠れない。

 慣れない環境で1日いろいろと動いていたにも関わらず、目が冴えてしまっていた。

 豆電球をつけたまま、横になって、休むだけ休んでいると、


「――凛さん、寝てるかな」


 朔弥さんの声がした。

 思わず身を起こすと、豆電球の明かりに、作務衣姿の背の高い人影が写っていた。

 部屋の古びた様子と合わせると、時代がわからなくなる。


「――まだ、起きてます。眠れなくて……」


 そう言うと、朔弥さんは心配そうな声になった。


「無理されてませんか? 大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫です」


 そう言ってから、朔弥さんに聞いた。


「ずいぶんと、和風な寝間着なんですね」


「ああ」と朔弥さんの影は、自分の服を見て、頭を掻いた。


「――家にいるときは、この格好なんですよ。動きやすくて。――父の物なんですけどね。たくさんあって、もったいないので着ています」


 お医者さんで収入はあると思うのに、欲のない人だと思う。


「動きやすそうで、いいですね」


 そう言うと、朔弥さんは頷いてから聞き直した。


「豆電球、つけておいた方がいいかな?」


「いえ、消していただいて、大丈夫です」


 そう答えると、朔弥さんは電球を消して、部屋が真っ暗になった。

 部屋の反対側で、布団が擦れる音がした。

 畳の匂いと、微かに石鹸の香りが漂ってくる。

 暗闇の中でも、胸の奥に小さな灯がともったような安心感が広がった。


「なんだか、今日はよく眠れそうです」


 そう言うと、朔弥さんの声も帰ってきた。


「――僕も、何となく、よく眠れそうな気がするんだ……」


 しばらくして、私は心地よい眠りの中に落ちて行った。


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