CHAPTER 1:Human Error
時は20XX年、人類は世界的な医療向けサイボーグ化技術の急速な発展により、これまで不治とされていた病気や大きなケガを過去のものとした。当然、人類はそれを医療の枠に留めず、軍事・政治・仕事・娯楽などあらゆる分野へと転用した。
ここ、ゾルバンガ共和国においても、全国民の約90%以上が身体の一部、あるいは全身をサイボーグ化しているという統計がある。いまや、サイボーグは人間とは切り離せない存在となっている。
ゾルバンガ共和国は、大陸の北東に位置する中規模国家である。北側一面は海に面しており、港湾都市が多く存在し、貿易が盛んに行われている。中央部には連峰のナルケマ山脈がそびえ立ち、国を大きく分断している。南部は温暖な平野地帯で、"かつて"は一帯のほとんどが農業に使用されていた。
サイボーグ化が公に認められるようになってからというものの、テクノロジー企業が軒並み業績を伸ばし、首都ルーケイを様々なビルがそびえ立つ大都市へと変貌させた。
さらには政治家と企業間での癒着も当たり前のものとなり、サイボーグ化に関する規制はほぼ作られていない。この国はもはやテクノロジー企業により、支配されつつあるのだ。
首都ルーケイの街は、いつもと変わらず忙しなく動いている。空を見上げると、数え切れないほどのドローンが飛び交い、ビルの合間をネオンの広告が埋め尽くす。歩道をすれ違う人々は、金属の四肢やチカチカと緑色に光る眼球を持っている。
ミラはその間を縫うようにして歩きながら、ジャケットのポケットに入ったガムの包装紙を弄り、黙々と歩き続けていた。
足の裏から感じる微細な振動、ビルの合間から吹き込む冷たい風、電子機器から発せられるモスキート音、ネオン広告の眩い光、味の薄まったガム、これら全てを感じることができるのは、ミラにとっては当然の事であり、この世界にとっては極めて異質なことでもあった。




