第52話 円卓会議
「お前はとんでもないことを言うな」
旦那さんたちが帰り、改めてラウルと今後のことを話し合おうとしたら呆れられた。
「とんでもないことは言ってないよ。考えてもみなよ。神の御子はぼくくらいの知識は持っているんだよ。そこに、女神から与えられた力が加わっている。酷い目にあっているだけに生まれ変わったら生きるために力を使い、快適な環境を築くのは至極当然のことなんだよ。いい例が田中一族さ。マルテスク王国でも一、二を争う一族になったでしょう。そうできるヤツがいるってことなのさ」
オレにもできるかは正直わからない。なにが災いするかわからんのだからな。
「人格者ばかりじゃない。理不尽に怒り、憎しみ、次は好き勝手に生きようって思うヤツがいても不思議じゃない。そんなヤツがいたらどうなると思う?」
「……想像はしたくないな……」
オレも想像はしたくない。が、今生をまっとうするには邪魔されないよう備えるしかない。
「遠い場所に生まれたらいい。でも、近くに生まれたときを考えて、ジ帝国とハーマラン教国はこちらの勢力圏に入れておくべきだ。旦那さんたちもジ帝国とハーマラン教国を手中に収めていたほうが商売がやりやすいでしょう」
「ま、まーな。どちらも戦争する気はなさそうだが、この先も起こらないとは限らない。起こったら最後、その間にある町は酷いことになるな」
想像したくないといいながら未来を想像できる。やはりラウルは賢い男だよ。
「ぼくは頂点に立つ気はない。でも、裏で纏め役はやるよ。そのほうが旦那さんたちも纏まりやすいでしょうし、お互いを牽制できる。まあ、それでも代表は必要だからラウルが初代をやりなよ。旦那さんたちにいきなりやれって言っても戸惑うだろうからね」
「おれかよ!?」
「ぼくと一番関係が強いのはラウルでしょう。話し合ってもたぶんラウルさんがやらされると思うよ」
「…………」
本人も自覚はあるようだ。
「まあ、一朝一夕に組織ができるわけじゃない。何年かは寄り合いみたいにやってって、情報交換をしていこうよ。意志疎通が大切だからね」
「そんなんでいいのか?」
「いいのいいの。月影館に集まる場所を造るから。商館なら集まりやすいだろうからね」
「おれは行き難いんだがな」
「じゃあ、他の娯楽も作るよ。社交場的なものならいいでしょう?」
エキゾチックなことばかりじゃ飽きられる。それ以外も充実させないとな。
「どんな組織名にするんだ?」
組織名か~。
………………。
…………。
……。
「うん。円卓会議って名前にしようか。会議に行くって言えば怪しまれたりしないだろうからね」
中二的な名前よりよくある名前のほうがいい。日時会話の中で発しても怪しまれることもないだろうからな。
「ハァー。神の御子と関わることがこんな大事になるとは夢にも思わなかった」
「ぼくもそうだよ。人生、一寸先は闇さ」
「よくわからんが、今を表しているのはわかってしまうのが悔しいよ」
天を仰いでも幸せはやって来ないよ。
「まあ、長い付き合いになるんだ、よろしくやろうよ」
ここに根づき、ここで果てる。かどうかはわからないが、ラウルとは長い付き合いになるのは確実だろう。ウィンウィンな関係を築こうよ。
「わかったよ。よろしく頼む」
諦めたように手を出したので、その手を握った。
「いい人生を始めようか」




