第44話 地道に勝る近道なし
月影館の改築増築は未だに続いている。
職人たちも他の仕事を受けることもなく月影一家の専属のようになっている。
「親方。もういっそのこと、月影一家にはいらない? まだまだ造ってもらいたいものもるし、うちに入ったら一家割引でエキゾチックダンスを半額にしたり酒を安く出したりするよ」
田中一族からもらった酒を分けてやろうと思ったけど、せっかくもらったもの。有効利用することにしたのだ。
「他にも怪我や病気になったら薬も出してあげる。もちろん、個人でやりたい人は無理に誘わないよ。この町なら個人でもやってけそうだしね」
独占しても恨まれるだけ。個人でやってくれるならありがたい限りだ。
「……皆と相談してみます……」
「ゆっくり、納得するまで相談してくれて構わないから」
無理強いは今後の関係にも関わってくる。納得してからのほうがこちらとしてもありがたい限りだ。
さて。酒は保存できるように樽に維持の魔法をかけたらお休みなさい。誰かオレに魔力をわけてくれ!
魔力を使っては回復し、訓練場に行っては射手座の戦士から魔力をいただく。
これがオレが求めた毎日か? なんて思う日もなくはないが、ゴブリンを求めて東に西にと旅をすることもない。毎日美味しいものを食べられて、毎日風呂にも入れる。寝るときは柔らかなベッドで横になれる。
辺な仕事をするより断然恵まれている。我が人生、勝ちである!
「エクラカ殿。今日も場所をお借りします」
マルステク王国に帰らなくていいんかい? ってくらい毎日のように訓練場に来ているモンザエモンさん。たまにイチノスケさんも来ているよ。
「ええ。ご自由にどうぞ」
なんて、なんだか田中一族の施設化が進んでいて、オレが借りているみたいになっている。
ここで食事ができるようにと、田中一族の料理人が来て、いつでも美味しいものが食べられるようになった。
小屋も作ってくれて快適度が日に日によくなっている。今度、お嬢たちを連れて来るか。ケンタウロスの勝負でも見せてやろう。
「エクラカ。魔力を測ってくれ」
目下、魔力上昇訓練に励んでいるアカリが小屋にやって来た。今、うどん食べてんだけど。
「ハイハイ。サーチっと。うん。40を突破したよ」
「まだ40かよ。なかなか増えないな」
いや、確実に増えてっから。魔力を鍛えて数ヶ月で25も増えてんだからね。
「なあ、もっと増やせる方法はないのか?」
「地道に勝る近道なし、だよ」
まあ、ないこともないんだけど、安易に手に入れた力は身を滅ぼす。強さは日進月歩。日に日に増えてんだから今の訓練を続けなさい。
「そうよ、アカリ。そういう卑しい考えをするから伸びないのよ」
モンザエモンさんの孫のイチカが従妹であるアカリを叱った。
顔も性格も正反対で、二歳しか違わないのに何事にも勝っているからアカリはイチカを苦手としているようだ。
確かにイチカはアカリより才能がある。初期魔力も30はあり、この短時間で50まで増やしている。そりゃ、アカリも逸るわな。
「大丈夫。アカリさんは伸びるから。基礎をしっかりとやりなさい。基礎ができてないヤツはここぞってときに負ける。経験者が語るんだからぼくを信じなさい」
イチカより劣ってはいるが、アカリも才能はある。ただ、イチカに意識しすぎているだけなのだ。
「自分の敵は最後まで自分なんだよ。自分に負けない者だけが先に進めるものさ」
「…………」
「落ち込んでもいい。悔しがってもいい。でも、自分を疑わってはダメ。驕ってもダメ。才能に溺れてもダメ。必ず上には上がいるのだから。一歩一歩進みなさい」
おにぎりをアカリに差し出した。
「よく食べよく学べ、若者よ」
「たまにジジイ臭いこと言うよな、エクラカは」
「人ってのは長く生きると説教臭くなるものなんだよ。アカリさんはそうならないようにね。うるせえ、ババアとか言われちゃうから」
「そんときはぶん殴ってやるよ。クソガキが、ってね」
「アハハ。それでいい。アカリさんはそれが似合っているよ」
下手に賢くなるほうがアカリのいいところを殺すからな。
「バカにしてる?」
「バカになんてしてないよ。時として性格は強さになるもの。バカにはできないんだよ。アカリさんの負けん気はいい負けん気さ。それを武器に強くなりなさい」
残りのうどんが冷める前に食べちゃう。あー出汁が効いてて美味いぜ。天ぷらがないのが悲しいぜ。オレ、天ぷら好きなんだよね。油、早く手に入れないとな~。
「アカリさんもイチカさんも食べなよ。おばちゃん、うどんお代わり!」
オレ、魔力を使いすぎてお腹空きすぎなんだよ。たくさん食べて早く魔力回復しないとな。
「おばちゃん、わたしは肉! 肉ちょうだい!」
「はいはい。野菜も食べなよ」
ザ・食堂のおばちゃんって感じのおばちゃんである。ケンタウロスの料理人ってこうなっちゃうのかね? てか、料理人って女性しかいないな? 男は料理人にならないのか?
「わかってるよ」
和気藹々。よく食べて魔力を回復しましょう、だ。




