第43話 ギンジョーとニカイー
「エクラカ。モンザエモン殿が持って来てくれたものだ」
月影館に帰ると、荷物が山積みとなっていた。
「そっちでなんとかしてよ。うち、倉庫とかないよ」
「お前に渡されたものなんだからお前がなんとかしろ。灰竜族にもこれと同じ量の土産をもらったんだから」
こんなに運んで来たの? 一月近くかかる道のりを? とんでもない金がかかってんじゃないの?
「田中一族、大丈夫なの?」
「問題あるまい。それだけの一族なんだからな」
オレが考えるより田中一族って凄いのか? 馬車なら五台分はあるぞ。
「ルー。なにか目録なんてもらった?」
「これよ」
紙を渡され、目録を読む。
この一年で文字は覚えたけど、この世界のものの名前はまだ覚えていない。田中さん、元の世界の名前で広めてくださいよぉ……。
「ハァ~。確認するしかないか。ルー。マチエさんと手が空いている者を集めて」
長い道のりを運んで来たのなら生物はないと思うが、調味料や香辛料があるかもしれない。そういうのはマチエさんじゃないとわからないからな、食材系は任せるとしよう。
「おれも手伝おう。どんなものか気になるしな」
「そっちと違うの?」
「うちには主に酒だ。マルステク王国の酒は帝国や教国でも人気でな、うちにはなかなか回ってこないものだ。いいものをもらえたよ」
それはなにより。オレも早く酒が飲める年齢になりたいものだ。
ラウルに目録を見てもらうと、こちらにも酒があった。
「なんて酒?」
「米から造ったギンジョーと麦から造ったニカイーだそうだ」
ギンジョーって吟醸酒か? ニカイーって二階堂さんか?
「樽で持って来たんだ。味見はした?」
「いや、まだだ。夜にでも試し飲みしようとしていた」
じゃあ、ここで試飲してみるか。お嬢たちも集まって来ちゃったしな。
「お、本当に吟醸酒じゃん」
懐かしい匂いだ。魂が味を思い出させてくれたよ。
「あら、美味しいじゃない」
「わたし、これ好き」
「わたしは苦手かな? ちょっと強いわ」
お嬢たちの好みは半々。ラウルは気に入ったようだ。
本当に飲めないのが悲しいぜ。
「これ、ルガルでも飲まれているの?」
「うーん。どうだろうな? タナカ一族が卸しているなら飲まれているだろうが、そんな話は聞いたことがない。少なくとも酒場には出回ってはいないはずだ」
「酒場なんてあるんだ」
「裏通りにあるぞ。宿屋もそこにある」
へー。それは知らんかった。小さな町でもじっくり歩いてみないとわからんのだな~。
「ルー。お酒は結構ありそう?」
「うちで飲み干せないほどあるわ。樽で二十はあるかな?」
そんなにあるんかい。てか、樽って何リットル入るものなんだ? この樽だと八十リットルは入るか?
「保存用に四樽残して職人たちに飲ませてあげようか」
「おいおい、そんなもったいないことするな。売ればそれなりの金になるんだぞ」
「いいじゃないの。ギンジョーとニカイーの味を覚えさせたらまた飲みたくなるでしょう。これは宣伝だよ。広く知らしめるためのね」
ここには損して得取れって教えがないのか? まずは周知させることが大切だろうがよ。
「それなら酒を卸せるようにしろよ。継続できなければ意味ないからな」
「了解」
それようの樽を用意しなくちゃならんな。一月も暑い中運んで来たら味も変わるだろうからな。いや、米と麦を運んで来てもらってここで創るほうがいいか? 米と麦のままなら保管も楽だろうからな。
「ニカイーは氷と炭酸で割るのがいっかな?」
氷と炭酸水を創り出して割ってみる。どーよ?
「ピリピリするな。お前の世界ではこんなのを飲んでいたのか? 悪くはないが」
「ニカイーは水で割ったりお湯で割ったりもするよ。ここだと氷と炭酸水で飲むのがいいかもね。ギンジョーも冷やしたり温めたりしてもいいよ」
論より証拠と、いろいろやってみて飲ませた。
「おれは、氷が入ったのがいいな。氷を創る魔法はあるのか?」
「厨房に冷凍庫があるからそこで作れるよ。作りすぎると魔力の消費が早くなるから注意してね」
毎回魔力籠めに出向いております。
「魔力か。お前がタナカ一族と交流を持とうとしているのもよくわかった。もうあの快適さを知ったら抜け出せないよ」
「生活は快適にしてこそ、だからね。田中一族には是非とも魔力を高めてもらって売ってもらうとしよう」
「そうだな。灰竜族としてもマルテスク王国との商路を開拓しないといかんな」
「田中一族の他に魔力を持っているかわからないよ。神の御子から受け継いでいるものだからね」
ケンタウロスが、ってより田中さんの血があってこその魔力だろうからな。
「それでもマルテスク王国との商路は開拓する。いずれ注文される日に備えてな」
まあ、がんばっておくれ。オレは田中一族を通して仕入れさせてもらいますので。
「エクラカ。部屋にも冷凍庫が欲しいわ」
「はいはい、がんばります」
まったく、魔力がいくらあっても足りないよ。




