第42話 魔力戦闘
訓練場には打ち合いができる場所もあり、武舞台と命名した。なんでかは説明するまでもなかろうて。
ケンタウロスが打ち合うのだから十メートル✕十メートルの四角形で、出たら負け用に溝を掘ってある。
そこの武舞台にオレとモンザエモンさんが対峙した。
まだ七歳の体なので馬の下半身にそれに見合った上半身。鎧の上からでもよく鍛えてあるのがよくわかる。レベル10どころか20でも危ないのかもしれないな……。
でも、それは肉体での強さ。魔法とは別の強さだ。
「やはり経験がある方は違いますな」
「そんな感じ出てるかな?」
オレとしては普通にしているつもりなんだけど。
「某を前に落ち着いているのがいい証拠。これでも一族から恐れられている身。さらに体格差をものともしていない。すなわちそれだけの経験を積んでいるから。油断なりません」
本当に凄い人だ。こんな時代では殺し合いなんて少ないだろうに、立っている姿からわかるなんて。どんな経験してきたんだろうね?
「武器はよろしいので?」
「魔法の戦い方を見せるからね。武器がないほうがわかりやすいでしょう」
武器と魔法を混ぜる方法もないわけじゃないが、必要としなかった。主な相手はゴブリン。他の魔物は仲間たちと協力して倒していたからな。わざわざ作る必要もない。鏃に魔法を乗せたくらいかな?
「では、始めましょうか」
「はい──」
どんな瞬発力だよ! 槍の穂先が目の前にあった。
ガン! と、魔力壁に激突した。ふー。あっぶねー!
「相手は魔力を持っている。気配がないからって油断してはダメだよ」
「魔力は物理攻撃すら防ぐのですな」
「ううん。これは防御魔法だよ。魔力だけで防ごうと思ったら80くらい必要だね。魔力はこういい風に使うといい──」
モンザエモンさんに突っ込み、蹴りを放つ──が、腕で塞がれてしまった。目もいい!
「いい蹴りですな!」
「防がれたら意味はないよ」
衝撃を利用して距離を取った。
「魔力は外に出すより内で使ったほうがいい。使いこなせれば身体能力が向上するからね」
ケンタウロスたちには魔法を使うより魔力を使ったほうがいいのかもしれないな。身体能力で勝てる種族はそうはいないだろうからさ。
「炎の玉!」
手のひらに創り出してモンザエモンさんに向けて投げ放った。
並みの生物なら当たった時点で燃えてしまうが、当たらなければ意味はない。腕力に左右されるスピードでしかない。モンザエモンさんにしたら止まっているようなもんだろうよ。
オレも当てられるとは思ってない。ゴブリンにはよく当ててたけどな。戦闘センスはないが、コントロールは才能があるんだぜ。
「槍に魔力を込めれば魔法でさえ斬り裂けるよ」
まあ、達人級でなければ難しいけど。
「凍てつく息吹!」
口からマイナス五十度の冷気を放った。
これはスライフって、粘着性のスライムみたいな魔物を倒すために創り出したものだ。マイナス五十度なら動かなくなったんだよ。
広範囲に影響を与えるものだから距離を取るしかない攻撃だろう。肺に入ったは大変だよ。
戦闘は身体能力が優れていればいいってもんじゃない。知識も必要だ。特に魔法戦なら特にだ。
勘が働いたのだろう。武舞台ギリギリまで下がった。負けは認めたくないようだ。
「自分の放った魔法で自身を傷つけることもある。それを知る使い手は攻防一体の技となる。その見極めは必要だからね」
マイナス五十度に満たされた空間をゆっくり歩いて行き、お湯を左右の手のひらからから出した。
マイナス五十度世界にお湯が撒かれたら一瞬にして霧状態になる。
「さあ、どうする?」
霧の中から問いかける。
「こうします」
モンザエモンさんの声がしたすぐに銃声が轟いた。ナイス判断。でも、それは想定済み。気配や音を消してモンザエモンの下半身の背に跨がった。
「ってな感じだよ」
「……参りました……」
うん。潔し。
下半身の背から降りて武舞台の霧を消し去った。
「ドンパチやるだけが魔法じゃないってこと。ってか、これがぼくの戦い方だね。それを忘れてぼくは死んだ。冷静な判断ができなくて相討ちにするのがやっとだった。師匠からそう教えてもらい、それが自分の戦い方だったのにね……」
反省しても遅いけど、こうして新たな命を与えられてしまった。なら、あのときの失敗を活かそうじゃないか。二度と大切な人たちと別れないようにするために、ね。
「エクラカ殿の教訓、ありがたく受け取らせていただきます」
「そうだね。田中さんが残したものは凄く大切なものだからね。末長く守って欲しい。ぼくも協力させてもらうよ」
オレが生きるためには田中一族の助けがいる。なら、田中一族の行く末はオレの行く末でもある。この生がまっとうできるまで繁栄してもらいましょう。
「ありがとうございます。当主に伝えさせていただきます」
「よろしくとお伝えください」
いつか挨拶しに行かんとな。本場の田中料理を味わってみたいしね。
ここで解散して、オレたちは月影館に帰ることにした。




