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スレイブズ  作者: まさまさ
第9章

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第3話 戦友で悪友で盟友③

「えぇ!?う、ウチのギルドに!?」


 その日ギルドで一番の大声が響き渡る。


 受付嬢の反応に、鎧の大男は頬を掻き、隣の金髪の男は洒脱な笑みを浮かべた。周囲の者も皆手を止め、声の方向へ視線を送る。


「え!?ホントに!?本当にあの閃光のロバートが!?え?嘘じゃないよね!?ってか、本物?偽物じゃなくて?」


 彼女が口走ったビッグネームに、集まる視線の圧が更に高まる。周囲の注目に気付いたミスラは慌てて口を塞ぐが時既に遅し。その場に居た全員が三人の言動に釘付けになっていた。


「そんな嘘ついてどうすんだよ。本当だし、本物だよ。こいつ、先の戦いで俺に味方したせいで帝国軍をクビになっちゃってさ。仕事が無くて困ってるんだ。ざまぁねぇよな」


「おい」


「頭は空だけど腕は保証する。このギルドに登録してやってくれないか?無理難題なクエストどんどんふっかけてやっても良いからさ」


「おい」


 随分荒っぽいジルの推薦に、隣の無職はしかめっ面。



 前日、ジルとセラが閃いたのがギルド『猫の手』への紹介であった。



 現在このギルドは、ジルが帝国側に突き付けた『猫の手に今後一切帝国が介入せず自由に活動させる事』という要求のお陰で厳しい税の徴収や中抜きが無くなった事で、レギンドの大戦が勃発する以前の、いや、他のギルドから流れてくる依頼も相まってそれ以上の賑わいを見せていた。


 故に、より一層の人手不足に陥ってしまっており、丁度人員を募集していたところなのだ。


「い、いや、それは本当に助かるわ。ジルさんにも凄く助けてもらってるけど、それでも人手が足りないから。これから更に高難度のクエストも増えてくるだろうから、渡りに船だよ本当に。でも本当にいいの?登録しちゃって」


 ギルドのクエストを受ける冒険者には、特定のギルドに登録された者と様々なギルドを渡り歩く者の二通りがある。


 前者は例外を除き他のギルドで依頼を受けられない分報酬割合は多く、後者はその逆である。登録された冒険者が多く在籍する方が安定した活動ができる為、ギルドとしてはその方がありがたい。


 だが、あの閃光のロバートを『猫の手』のような中小ギルドに所属させる事に申し訳無さを感じたが故に、ミスラは念を押したのだ。


 因みに隣の鎧の大男は既に猫の手の登録冒険者である。


「だってさ、どうする?」


 ジルの問いにロバートは破顔を浮かべる。


「是非に!寧ろそうしてもらえなかったらどうしようかと思ってたところだよ!」


 彼程の男の登録申請を断るギルドなど余程の事でなければ存在しないだろう。女関係で色々トラブルを抱えているのでその線での可能性はあるだろうが。


「じゃあ、今日からよろしく頼むよ。俺の名はロバート。ロバート=ベクラルだ。キミは?」


「あ、受付嬢のミスラ=カナルルです。このギルドのメイン受付をやってます。どうぞよろしく」


 年相応の可愛らしい笑みに浮かぶ、お茶目な八重歯。しかしその肉感的な躰は幼い顔つきに似合わず凶悪であり、ロバートの心を一瞬にして鷲掴みにしてしまった。


「ミスラちゃん……。なんて可愛らしい名前なんだろう。いや、名前だけじゃない。その容姿もとてもセクシーでキュートだ。小鳥のような可愛らしさと蝶のような妖艶さを併せ持つ奇跡の存在……。お近づきの印に僕とお茶でもどうかな?美味しいアップルパイが食べられる喫茶店を知ってるよ?」


「え?え?あ、え!?お、お茶ですか!?いや、でも、その、私……」


 ナンパには慣れている筈のミスラだが相手があの閃光のロバートであり、かつジルとは違うタイプの爽やかな美男であるのもあってか頬を初心色に染めながら、困ったようにジルに視線を送る。


 この状況、かなり既視感があった。


「あ~……。こいつ、誰にでも同じようなこと言ってるから」


「どうしてお前はいつも俺のナンパの邪魔をするかなぁ!?嫉妬か!?嫉妬なのか!?」


 怒鳴りながらジルの脛に何度も蹴りを入れるが、直立姿勢のままびくともしない。ミスラはと言うと、じっとりとした半目をロバートに向けていた。


「あ~……。女癖が悪いって噂は本当だったんですね~。ウチのギルドではそういうの控えてくださいね?トラブル起こしたら放り出しますので」


「……き、肝に銘じておきます……」


 さっきまでの尊敬の眼差しはすっかり消え失せ、冷たい微笑みを向けてくるミスラに背筋を凍らせるロバート。早速ながら力関係が確立されてしまったようだ。


「ちょ~っと、良いかな?」


 と、そんな中、騒ぎを聞きつけた一人の若いメンバーが三人に近付いてきた。まだルーキーなのだろうか、身に着けている装備は最底辺に毛が生えた程度である。


 若さゆえの度胸か、はたまた見栄を張りたいだけなのか、その不敵な笑みは因縁を付けに来たことを三人に悟らせた。


「アンタ、本当にあの閃……」


 刹那に瞬く煌めき。気付いた時にはロバートの手に護身用の短剣が握られていた。青年のベルトは切断されズボンがずり落ち、青と白の水玉模様の可愛らしい下着が露になっていた。


「これで満足か?」


「…………は、はいっ!すいませんでした!ありがとうございますっ!」


 何が起きたのかをようやく理解した瞬間、青年は赤面しながら首を何度も縦に振り、素直な詫びの言葉を残し奥に引っ込んで行った。同時にその早業を目の当たりにしたギルドのメンバー達から歓声が上がる。ロバートの仲間入りを歓迎しているようだ。


「恥をかかされたのにちゃんと詫びと礼が言える辺り素直で良い子だね」


青年は切られたベルトを掲げ嬉しそうに他のメンバーに自慢している。そんな姿にロバートの顔もつい綻んだ。


「あの子、ロバートさんの大ファンなんですよ。不器用なあの子なりに挨拶したかったんじゃないですか?」


 ミスラの言葉に満足げに頷くとロバートは短剣を懐に仕舞い、登録用紙に走り書きで名前を記す。


「ここでなら上手くやっていけそうだ。これからよろしく頼むよ」


「こちらこそ!ようこそ、『猫の手』へ!」


 ミスラの言葉により一層の歓声が上がる。ロバートはその声に導かれるようにして酒場へと向かい、そしてあっという間にメンバーと打ち解け、酒盛りが始まった。


 ジルは感心と呆れが混じった溜息を漏らしながら、自分のクエスト受注書をミスラに手渡す。


「あら、またパメの実の採取ですか」


「あぁ。群生してる場所はもう分かってるし、セラやカリナがまた食べたがってるからな。ついでにもらって来ようとね」


「なるほど。……あの、ジルさん。何から何まで本当にありがとうございます。感謝してもし切れません」


 急にしおらしくなる看板娘。ジルは鎧の下から微笑みかける。


「気にすんなよ。俺とアンタの仲だろ。これからもよろしく頼むぜ」


「……こちらこそ!」


 固く握手を交わす二人を余所に、酒場は大きな喧騒に包まれる。見れば、ロバートが周囲のメンバーに進められるがまま酒を樽ごと呷り始めていた。既に上半身は裸である。


「あ~、そうそう。アイツ、超が付くお調子者で超が付くトラブルメーカーだから、そのつもりで」


「あ、アハハ……。何か、噂とイメージ違いましたね。もっとこう、クールで物静かな人とばかり……」


「噂なんて、当てにならないもんさ」


 ミスラは鎧に隠れて見えないジルの顔をまじまじと見詰めながら、そうですね、と笑顔で呟いた。




 ―――――




「色々と助かったよ、あんがとな」


『猫の手』の近場にある小さな宿場町。その中の小さいが小奇麗なとある宿屋の一室で、ベッドの感触を確認しながら、ロバートは鎧を解除したジルに礼を告げた。


これからロバートはこの宿を根城にして生活することになる。部屋は狭いが必要最低限の物は揃っており、清爽も行き届いている。


 当面の宿泊費はジルが既に払っておいた。金の出どころは帝国が持って来た慰謝料だ。ロバートが今後起こすであろうトラブルを加味して少し多めに支払っている。


「なに、お互い様だ」


「へへ、だな。あ、そうだ。折角だしどっかで飯でも食っていくか?」


「誘いはありがたいけど、家でセラとカリナが待ってるからな」


「お、そういやそうだった。所帯持ちは夜が不自由だな」


 冗談混じりで笑い合う二人。その後、取り留めも無い雑談を少しした後、ジルは我が家に帰るべく再び鎧を発動させた。


「まだ人前で鎧出すようにしてるのか?」


「あぁ。まぁ、癖みたいなもんだな。それに俺の『女神様』は少しばかりワガママでさ、定期的に出さないと不機嫌になるんだよ」


「ハハ、相変わらず苦労してるんだな。そう言えばお前、前に言ってた奴隷ハーレム計画は上手い事言ってんのか?」


 その問いに、狭い出入口の前でジルの足が止まる。


「俺が見た限りではハーレムって言うよりは幸せな家庭って感じだったけど。いや、あれもあれで良いとは思うけどさ」


「……いや、その、何と言うか……。奴隷を増やしたいのは山々なんだけど……。中々選べなくてさ。毎日奴隷のリストの前で唸ってるんだよね……」


 鎧の上からでも分かるジルの辟易に、ロバートは瞳を鋭く光らせる。


「相棒。俺を誰だと思ってるんだ?女の目利きに関しちゃこの大陸何所を探したって俺の右に出る奴は居ないぜ?」


「ろ、ロバート。お前……!?」


 任せろ。力強いウインクがそう伝えていた。


 ジルにとって、終わりの無い迷宮に突如として道標が現れたような気分であった。


「やはりお前は最高の友人だな……!」


「お前のその都合の良さ、嫌いじゃないぜ」


 二人は笑みを交わすと、別れた。


 帰宅後、やけに機嫌が良さそうなジルを訝しんだ従者二人はその晩風呂場にて尋問を行うのだが、それはまた別の話。

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