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スレイブズ  作者: まさまさ
第7章

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第1話 別離

「入れ」


 高圧的な声と共に広間への扉がゆっくりと開かれる。薄い白のローブに全身を包んだエルフの淑女は下唇を噛みながら、その男の声に吸い込まれるかのように紺色のカーペットの上を進む。


 絢爛豪華な作りのその部屋は王の間。


 最奥に鎮座する巨大な玉座には、少しだけ品の良い半袖のシャツと長ズボンという、ラフで簡素な出で立ちの『王』が喜悦に塗れた笑みを浮かべていた。


「実に似合っているぞ?セラ」


 好戦的な吊り目から覗く翠の瞳には、世に二人と居ない絶世の美女が映し出されていた。


「……アナタにその名を呼ばれたくはありません」


セラは強気に睨み返すが、それは逆にソリアの嗜虐心を呷っただけであった。


「フフ……。そう言うな。お前は元々は俺のモノだったんだ。横取りされたから取り返したまでさ」


「私はアナタのモノになるつもりは一切ありません」


「その態度、最高に良い」


 オズガルド第三帝国が王、ソリアは跳ぶようにして玉座から降りると、部下に攫わせたエルフの前に歩み寄り、その身体を舐めるように見つめる。


 この日の為に作らせた半透明のローブの隙間からは彼女の美しい柔肌が時折顔を見せ、敢えて小さく作らせた胸部からは大き過ぎず形の良い胸が今にも零れ落ちそうになっていた。


 彼の用意させた衣服は存分に彼女の魅力を引き出しているようだ。


「いい加減、従順な奴には飽き飽きしてたんだ。抵抗心を見せてくれた方が堕としがいがあるというものだ」


 ソリアの指がエルフの太腿を、腰を、胸を、そして頬を蛇のように這う。セラはあまりの嫌悪感にその手を払いのけた。


「何があってもアナタに屈したりはしません」


「屈するさ。必ずな。忠義や愛や信頼など、快楽の前では児戯に等しい」


 その言葉にセラは戦慄する。表情には出さないが背中には汗が滲んでいた。手は震え、視線も徐々にソリアから外れていく。


 この先、自分がこの男にされるであろう行為を想像しただけで足が竦み、吐き気を催す。その心中を察してか、ソリアは嬉しそうにセラの顎を指先で摘まんだ。


「安心しろ。まだお前をどうこうしたりはしない。最高の舞台を用意してある。その時に、お前の心は完全に俺に屈するのさ」


「……随分なナルシストなんですね。言ってて恥ずかしくないのですか?」


 セラの発言に、ソリアは瞳を光らせる。しかしそれは怒りや不快感と言うよりは期待の混じった興奮といった輝きであった。


「跪け」


 誰が従うものか。その反抗心は一瞬で瓦解し、セラは膝を床に着けてしまう。


 圧倒的な魔力に依存した威圧感が彼女の身体を押さえつけていた。指一つ動かせぬ状態のセラにソリアは満面の笑みで歩み寄り、告げる。


「レッドデビルはお前を取り戻しに来るだろう。その悪魔を半殺しの状態で拘束し、その目の前でお前を抱いてやる。好きなだけ救いを求め、泣き叫ぶが良い。最後には奴の死体を前に嬌声を上げさせてやろう。楽しみにしておけ」


「……っ!」


 その目は問答の虚しさを露にしていた。何を言ったところでこの男には響かない。この男は完全に狂い、自分に酔っている。


 ほんの微かにではあるが話の通じる、説得に応じる可能性を考慮していたセラであったが、最早希望は潰えた。


 このままではジルは必ず自分を取り戻しに来るだろう。そして、この男の言う通り、圧倒的な戦力差の前に敗れてしまうだろう。


 自分の身はどうなっても構わないからそれだけは何としても防がねば。そう思いはするのだが、しかし今の彼女に出来る事は何も残されておらず、その事実に顔が歪む。


 その表情こそがソリアにとって何よりの馳走であり、今の彼が尤も欲して止まないものであった。


「お前は今日この時より、奴隷ではなく私の側室の一人としてこの宮で暮らしてもらう事になる。光栄に思え」


「……」


 返事など求めない。彼の膨大な魔力が彼女の口を封じていた。


 光栄どころか、人生最大の不名誉だった。ジルの奴隷であったことがより一層誇りに思えてしまう程に。


 その後、謁見を終えたセラはソリアの従者に連れられ部屋に戻される。


 彼女の為に用意された部屋は豪華な家具や希少な魔具がこれでもかと詰められた、ソリアの自己満と見栄で構成されただけの部屋であり、彼女の心が休まる要素は何一つとして存在しなかった。


 従者は無言で扉を施錠し、セラは一人部屋に取り残される。彼女は着せられていたローブを一心不乱に脱ぎ捨て、ここに連れ去られていた時に着ていたワンピースを抱きしめる。


 そこにはまだ、ジルの屋敷で生活していた香りが残されていた。


 彼女がここに来ればジルや他の家族には手を出さないと約束させてはいるが、それはジルがこちらに牙を向かないという条件付きの保障である。


 彼女は確信と同等の予感を抱いていた。あのジルなら、あの優しい主人なら、必ず自分を取り戻しに乗り込んでくるだろうと。そしてそれは恐らく、最悪の結末を迎えてしまうのだろうと。


 自分が居たせいで。自分がジルの奴隷になったせいで彼らに迷惑をかけてしまった。その事が辛くてならなかった。


「ジル様……」


 その名を口にした途端、腕の中の衣服が濡れる。今まで耐えてきた嗚咽が一気に押し寄せ彼女の心を飲み込んでいく。


 


 セラがジルの屋敷より攫われて、半日後の出来事であった。

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