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スレイブズ  作者: まさまさ
第7章

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第6話 主人の弱気

「……」


 その日の朝食の雰囲気は未だかつてないほど重かった。あの能天気なナナでさえ、今日は静かに肉を摘まんでいる。


 新聞も一緒に読んだ。調理も一緒にした。時折笑顔もこぼれ、いつもと変わらぬ朝の様に見えた。しかしカリナは居心地が悪そうにぼそぼそとパンを齧りながら、テーブルを囲む面々へ視線を送る。


 食事が始まり五分は過ぎようとしているのに、ジルの食器にはまだパンもスープも残っていた。スープを一杯啜っては口の中で押し留め、ひと思いに飲み込む。テーブルの上に向ける視線はどこか虚ろだ。


 いつもは他愛のない話題を切り出しては場を和ませているセラも、今日は黙々と料理を口に運んでいた。淡々としたその様相は凛そのもので、彼女のそもそもの美しさを再認識させられるが、それと同時に不気味でもあった。


 そして、ククルの姿は無かった。


「さて、昨日の件で少し話がある」


 食事の後、紅茶を飲み終えたジルがタイミングを見計らい声を掛けた。家事を終わらせたセラとカリナは速やかに席に着く。ナナはさっさと日光浴に出かけていた。


 因みに前日の出来事はカリナには説明済みであり、今後どうするかの結論はジルの答えを待つのみとなっていた。


「まず大前提として、俺はこの暮らしを手放す気は毛頭無い。反乱軍の仲間になるつもりも無ければ、もちろん帝国に肩入れするつもりもない。みんな仲良く。平和に楽しく。それが我が家の家訓だ」


 そんな家訓は初めて聞いたが、セラとカリナも神妙な面持ちで力強く頷いた。


「だから奴の勧誘は当然断る!脅しにも屈しない!奴の、反乱軍の仲間になる筋合いなんて無いからだ!俺達は自由に生きていく!誰にも邪魔はさせない!何がバラドだ!ビビると思ってんのか!俺はレッドデビルだぞ!舐めるな!」


 おおお!と、歓声が上がる。小刻みな拍手が響く。固く拳を握る主人の啖呵に場は沸き立った。


「というのが本心ですが。実際はどうするか大変悩んでおります。あと、めっちゃビビってます。助けて……」


 急な弱気にセラとカリナは同時に肩を落とした。だが、素直に心境を述べ正直に弱音を吐いてくれるジルに少し安堵したのも事実である。


「断っても問題無いと思います。正直、バラドが現時点のジル様を亡き者にすることで得られるものが殆ど無いどころか、失うものが多過ぎますからね」


 セラの言葉にジルは腕を組み、唸る。


「俺もそれは思う。俺を殺せば反乱軍の士気は下がるしバラドへの不信感も募るだろうからね。でも、だからと言って断ったところで素直に聞くような感じでもなかったしなぁ……」


「意外とすんなり受け入れてもらえるかもしれませんよ?仲間に引き込むというよりはどちらかと言うと帝国と繋がらないようにする為の脅しだったようにも感じます。ジル様を仲間に引き込めなくとも、ジル様という存在が居られるだけで彼らにはメリットでしょうし」


 帝国に迎合しなければという前提の話ではあるが、ジルにその気が無いのはセラも当然把握していた。


「それはそうだけど……。あのバラドだからなぁ。下手したら俺以外の誰かを人質にも取りかねないし……」


「それも無いと思います。仲間として迎え入れ、共に戦うのであればそれなりの信頼関係は必要でしょうから。下手すればジル様が帝国側に付く口実になりかねませんしね」


「でもなぁ……」


「やっつけちゃうのは、ダメなんですか?」


 うじうじと煮え切らない態度の主人に痺れを切らしたか、カリナがさらっと言い放った。動きを止め目を丸くするセラとジルに気圧されながらも、カリナは言う。


「だって、こんなのおかしいですよ……。ジル様は何も悪くないのに。そんな無茶苦茶言われて……。そんなの、はっきりと断っちゃえば良いんです。それで向こうが何かしてくるのであれば、やっつけちゃえば良いと私は思います……。悪いのは向こうなんですから」


 単純明快で最善の答えであった。それが可能かどうかは置いておいて。


「それが出来れば何よりなんだけど……。ゴメン。ガッカリさせちゃうかもしれないけれど、俺はバラドには勝てない、と思う。だからその作戦は、ちょっと無理かな……」


 優しい笑顔だったが、どこか悲しげであった。ジルの強さは噂だけでなく、セラからも聞いていた。そんな頼れる主人の言い放った弱気な言葉に、少女は耳を疑った。


「そんなに、ですか……?」


「うん。多分この大陸でも指折りの強さだね。俺なんか相手にならないと思うよ?それに、俺が死ぬだけなら良いけどキミ達まで巻き添えになっちゃうからね。それだけは何としても避けたい。だから、戦うっていう選択肢だけは選んじゃいけないんだ」


「……」


 それを言われては、カリナも黙るしかなかった。暗い雰囲気になりかけたところで、ジルが手を叩く。


「でも、カリナの言う事も尤もだ。いざとなればそのつもりで強気にいかないとね!もっと前向きに考えていこう!」


「ですね!もしそうなれば、私も共に戦います!」


「わ、私も……!」


 無論、ジルはその殊勝な心掛けを断固拒否した。それでも、彼にとってその言葉と彼女たちの存在は大きな心の支えとなっていた。返事の期限までにはまだ時間がある。より良い解決策を探す為、ジルはもう少し頭を悩ませることにした。

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