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真紅の青年から悲しみの吐息がこぼれ出る。まるで、この世の全てを諦めてしまったかのような表情は悲愴さえも存在を許されない。
「確かに...…その本そのものには意味があるのかもしれない」
「ただ……」
「ただ? 」
「俺は運命に縛られたくはない」
群青色の青年の力強く意思の宿る瞳に、真紅の眼が大きく見開かれる。
「どんな世界にも預言が存在し、運命は俺達を有るがままに向かわせようとするかもしれない。でも、もし自由が僅かにでも許されるなら抗うことに罪はないだろ」
「そっか……」
真紅の青年は何かを堪えるように俯くとゆっくりと空中へと身を任せ、群青色の青年にすがるような抱擁をして顔を埋めた。
突然の出来事に理解が出来ず、成すがままになってしまう。
「やっと……答えを出してくれたんだね……」
「…………やっと……? 」
「君は何度問うても「わからない」の一言だった……」
その言葉に、確信が芽生える。
この青年の言うように、この世界は運命の一冊に縛られているのだろう。そして、この青年は今までずっとただ一人で自身に問い続け、抜け出す光を求めていたのかもしれない。
小さく見えた背中を包み込むように抱きしめ返す。触れた身体はとても冷たく、硝子のように脆くも柔らかな人肌で温もりを求めていた。
顔を上げた真紅の青年が柔らかな口づけを落とす。
その直後、何処か光の無かった視界に蘇るように失くしていた映像が走馬灯のように流れた。
真紅の青年の笑顔と詩、二人で見つめた世界、優しい口づけに交わした交わり、そして、絶望に歪む最後の涙……――
それは忘れたかった過去であり、忘れてはならない過去、そして忘れたくない過去でもあった。
頬に全ての感情の雫が優しく撫で下ろし、大地を潤すように滴り落ちる。
「…………レヴェが……運命だったんだな……」
「…………」
「お前が俺を選んだから……世界はずっと止まったままだった……」
「そうだね……モンド……」
二人を包み込むように柔らかな風が木の葉を揺らした。