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目の前には身の丈を越える巨大な金色の十字架が存在し、威圧感さえも感じてしまうほどだ。
形としては何処にでもある十字架なのだが、問題はその手前に存在する凱旋門のような門だ。高さは優に30メートルは越えており、幅も40メートルはあるだろうか。銀弾のような輝く門は神聖さを放ちながら人を寄せ付けぬ威厳を放っていた。そして、その門の上には一人の青年が今もなお謳い続けており、まるでこちらが見えていないかのようだ。
背格好は170センチの群青色の青年より背が高く、180センチといったところだろうか?
白いゆったりとした衣に広がった七分丈の袖、足に沿うようなピッタリとした紺色のボトムを着ておりラフな印象を受ける。
自身の葡萄酒色の髪とは真逆の瑠璃色の柔らかな髪を靡かせ、光の無い真紅の眼が広がる天空を映し出していた。
耳を優しく撫でる歌声は未だに光が灯る事の無い悲しさを紡ぎ続ける。
ふと、真紅の青年と眼が交差した。
先程まで魅せていた深い闇を宿した眼とは裏腹に鮮やかな惹き寄せる真紅に意識が引き寄せられそうになる。
その眼を見ていると、何故だか懐かしさを感じた。まるで、初めから出会っていたかのような錯覚に運命の物語へと還った懐かしさが感情を支配する。
どれ程見つめあっていたのか分からないが、静寂の支配権を破り捨てるかのように真紅の青年が言葉を紡いだ。
「もし、この世界が初めから創造されていたらどうする? 」
「どういう意味だ? 」
「誰かの創造の中に存在することしか許されないのならば、この生に意味はあるんだろうか? 」
真紅の青年からの質問の意図が次第に図式のように広がっていく。
恐らく、もしこの世界が誰かの物語の世界なのだとしたらどうする……ということだろう。この世界は運命の一冊によって支配され、有るべき物語に導かれる定め。もし、そんな世界でしか生きる事を許されないのならば自身達の生にどんな意味があるというのか?
群青色の青年は暫く考え込むと言葉を紡いだ。
「人それぞれ答えは違うかもしれないが、俺ならそんな世界にも意味はあるんだと思う」
「意味? 」
「運命の一冊が語り部として統治する意味」