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微睡む夢の中で誰かの悲しい詩を聴いていた。それはきっと、何処までも悲愴で何処までも救いのない物語を語りかけているのかもしれない。
そんな夢の中から目覚めた青年は、夢心地に囚われ自身の置かれている状況を把握するまでに時間がかかってしまった。黒のアジア民族を思わせる黒服に少し薄目の黒いボトムを着ている青年は次第に意識が鮮明に色づき、頭の白紙が形作っていく。
辺りは天高く青々と繁る見知らぬ森林が取り囲み、全てを呑み込むかの様に深く、そして柔らかな空気が包み込んでいた。どれだけ群青色の眼を凝らそうと景色が開けることは無く、温もりも与える木漏れ日が微かに光柱を彩り、今居る場所が何処かしら幻想的に感じてしまう。
そんな森深くに眠っていた理由が思い当たらず、鮮明になった頭をフル回転させ過去の記憶を探る。
「俺は一体……此処は何処だ? 」
探せど探せど過去に繋がる糸口を見つけられず自身が何者なのかさえも分からない。しかし、このような状況でも冷静でいられるのは何故なのだろうか?
頭を抱えながら鉛のように重い痩せた身体で立ち上がると不意に何処からか透き通るような歌声が響いてきた。
歌声は何処までも悲愴であり、まるでこの世界に問いかけるかのように辺りの静寂を許さず、有りとあらゆる全てに共鳴しているようだ。
そんな歌声に身体は無意識に引き寄せられるかのように近づいていき、歌の鼓動が大きくなるにしたがい自身の鼓動が早鐘を打つように高鳴っていくの微かな意識の深くで感じていた。
深い森を抜けた先には日光を反射して輝くような天色の壮大な湖が迎えていた。動物などの気配はなく、小鳥さえも存在しない湖は非現実的な存在を放ち、まるで誰からも忘れられたような無さえも感じてしまう。辺りを見回して湖を観察してみるが、特に情報は得られそうになく、先程から流れ聞こえる歌声に木霊するように風に靡くばかりだ。
しかたなく歌声の方へと歩みを進め、湖の先へと辿り着いた。
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