14-4 地味な魔法で救世主
世界中の歓喜が念話に満ちあふれている。僕たちは、不可能と思えるようなミッションを達成し、地球の誕生以来最大の危機を乗り越えたのだ。
「あたしの目に狂いはなかったわ。エリナの魔法、ほんまに尊いわあ!」
「シン、やったんだな! 俺たち、世界中の人々を救えたんだ!」
アリアは第二の太陽を仰ぎ見て、まるで神々しいものを見るかのように手を合わせ、エネルは感極まった声で叫び、男泣きしている。
「いや、みんなの力があってこその結果だよ。僕ひとりじゃ、到底やり遂げられなかった」
そう言いながらも、胸の奥に達成感が広がる。
「だが、シン。お前の力がなければ、世界中の心をひとつにまとめることは不可能だった。何よりも素晴らしい力だと、俺は思うよ。そして、みんな思っているだろう、お前が真の救世主だと」
グラヴィスの最大の賛辞に、僕の中で何かがじんわりと込み上げてくる。そうだ、世界は広く、様々な事情を抱えた国々がある。貧困に苦しむ国、未開の地、独裁政権の支配下にある国、そして戦火の中にいる国々――それでも今回のミッションでは、全ての人々の心がまさにひとつになった。僕の、地味で大したことがないと思っていた『念話』の魔法が、世界をひとつに束ねたのだ。
「私は最初から思っていましたよ。シンの念話の魔法は、とても便利で……そして素晴らしい魔法だなって。心から羨ましいと思っていました」
エリナが静かに、しかし真っ直ぐな言葉で言った。その言葉は、エリナと初めて会った時の言葉と同じであり、僕の心の奥深くに響いた。
『勝ったぁ!』
そこで、フォレスティアの嬉しそうな声も響いてきた。
『シン、やったね。ついに世界を救うことができたね。ボクの読みどおりだったよ』
その無邪気な喜びが伝わってきて、僕も少し笑みを浮かべた。だが次の言葉は僕を困惑させた。
『おかげでボクもアビスティアに勝つことができた。これはね、ボクとアビスティアの勝負でもあったんだ。ソルの消滅から世界を救えればボクの勝ち。救えなければアビスティアの勝ち。それぞれ頼りになるパートナーを探して競ってたんだ。ボクはシンとエリナ。アビスティアはゼノルスを選んだみたいだね』
……え、どういうこと?
疑問が頭を巡る。
『白状するとね、ボクには未来を見る能力のほかに、もう一つ特別な能力があるんだ。それは、魂を転生させる能力だよ』
『転生……?』
『そう。なにせ今回の勝負は圧倒的にボクが不利だったからね。この能力を使って、このミッションをやり遂げてくれそうな魂を過去から呼び寄せたんだ。その一人がシン、君だよ。あとはね、アリスの魂をアリアの中に入れたりもしたけどーー』
言葉を失った。僕がこの時代に存在しているのは、フォレスティアの策略の結果だというのか。
『ボクとアビスティアはね、生まれてからもう何十億年も存在してるんだ。光と闇という対極の存在だから仲は悪いけど、退屈だから、こうして色々な勝負をしてきたんだ』
フォレスティアは無邪気に続ける。
『ピカイアを氷河期から救ったときはボクが勝ったけど、恐竜が絶滅したときはボクの負けで、世界はしばらく闇に包まれたよ。でも、アウストラロピテクスを絶滅させず次に繋げたのはボクの勝ち。凄いでしょ? そんな風に、これまで勝ったり負けたりして、人間も何度も滅んで、時間をかけてまた誕生させたりしてきたんだけど、今回の勝負はその中でも一番の大きなものだった』
フォレスティアの声に隠しきれない誇りが滲む。
『アビスティアも、闇の力を増やすために絶対勝ちたかったんだろうね。だから今回は直接干渉までしてきた。でも、それでも勝ったのはボクだ! 本ッ当に嬉しいよ!』
フォレスティアの喜びは純粋なものだったが、僕は胸の中に複雑な思いを抱かざるを得ない。不滅の存在の彼女たちにとって、これは自然現象を利用した、ただのゲームだったのかもしれない。でも、僕たちにとってはあらゆる種の存続を賭けた挑戦だった……
……まあ、いいさ。
僕は一度深呼吸をして、その考えを振り払った。フォレスティアとアビスティアの勝負の話はどうでもいい。重要なのは、僕たちが太陽の膨張と消滅の危機を回避し、今、こうして無事に生きているという事実だ。これを成し遂げるためにフォレスティアのサポートは不可欠だったし、僕に第二の人生も与えてくれた。目的がどうであれ彼女への感謝は変わらないだろう。
「いやぁ、最高の達成感だな。なあシン、ところでこれからどうする?」
エネルが肩を叩きながら声をかけてくる。次のことなんて何も考えていなかった。これだけの大仕事で、流石に疲れた。もう一生分働いたんじゃないか、という気さえする。正直なところ、少しのんびりしたい。スローライフ的な感じの――
「あたしは、みんなでまた美味しいものでも食べたいわあ」
アリアが嬉しそうに言うと、エネルも乗ってきた。
「いいな、ここからはちょっと遠いが、イグナリスのあの食堂にまた行くか?」
「ああ、あそこ! ええなあ。あの美味しいとこやな」
「おお、なんだ、それなら俺も混ぜてもらおう!」
グラヴィスも笑顔で加わる。
イグナリスの隠れ家的食堂の話が出ると、エリナもぴくりと反応した。だが、すぐに表情を引き締め、僕の方をじっと見つめる。
「シン……とても言いにくいのですが……」
エリナは申し訳なさそうに、でも少しだけ嬉しそうにこう言った。
「おそらく、シンと私は、もう二度とルミナス王国から出ることはできないと思う……」
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