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14-2 ひとつになる心

 計画通り、第一段階は成功。次は第二段階だ。


『皆さん、ありがとうございます! 十分な魔力が集まりました。これから、皆さんからお預かりした魔力を使って、この世界を太陽から遠ざけます。しかし、大きな衝撃が生じるので、すぐに家屋や木など、地面に固定されたものにしっかりつかまってください!』


 僕の声が念話を通じて世界中に響く。少しでも不安を和らげるため、できるだけ落ち着いた口調を心がけた。


 僕は世界中から集めた10億人分の魔力を、太陽の祭壇の増幅装置に直接流し込む。事前の実験結果では、増幅装置に平均的な一人分の魔力を投入すれば魔法の威力はニ倍に増幅される。ニ人分なら三倍、十人分なら十一倍。そして、十億人分の魔力を投入したとき――魔法の増幅量は約十億倍に達する。

 さらに、アリアの『増幅の福音(ブーストーン)』で術者を百倍に強化すれば、掛け合わせて千億倍の力になる。


 僕が知る限り、エネルの魔気波(マギハ)はあらゆる魔法の中で最も衝撃力の大きい魔法だ。そして、出会った頃のエネルと比べ、彼はこの戦いを通じて著しく成長した。今の彼の本気の魔気波(マギハ)は、時速三百キロメートルで走るトラックが衝突したほどの破壊力、と見ている。

 しかし、この魔気波(マギハ)をそのまま千億倍に増幅したとしても、膨大な質量をもつ地球を動かすにはまだ到底力が及ばない。


 そこで頼れるのがグラヴィスの力だ。彼の『重量消去(アンティマス)』の魔法は、全力を出せば小さな島の重さを三秒間ほぼゼロにすることができる。この力を千億倍に増幅すれば、地球全体の重さをゼロにすることも可能という計算が成り立つ。


「アリア、強化魔法を念話で送ってくれ!」

「まかしとき! いくで!」


 ーー増幅の福音(ブーストーン)ーー


 アリアの強化魔法を受け取り、僕はそれをグラヴィスに転送する。彼の魔法は百倍に強化され、圧倒的な力が彼の手に宿る。

 その状態で、グラヴィスは太陽の祭壇の水晶に手を置いた。そして――


 ーー重量消去(アンティマス)ーー


 魔法を流し込むことにより、千億倍に増幅されたグラヴィスの魔法が、巨大魔法陣を介して放たれる。その瞬間、狙い通り、地球の質量がほぼゼロになった。重力も消え、体がふわりと浮き上がる感覚。人々の驚きが伝わってくる。

 そこで即座に、僕はアリアの魔法の転送先をエネルに切り替えた。隣に控えていたエネルは即座に太陽の祭壇の水晶に手を置き、渾身の魔法を発動する。


 ーー魔気波(マギハ)ーー


 千億倍に増幅された広大なエネルギーの柱が、ルミナス城上空の巨大魔法陣から真上に放たれた。同時に猛烈な下向きの加速度を全身で感じる。地球全体が押し下げられるような感覚だ。だが、それは一瞬。グラヴィスの魔法が切れる3秒後、重力が戻り、周囲は落ち着きを取り戻した。

 だが、体感として確信はあった。地球は公転軌道から確実に外れ、太陽から遠ざかる方向に加速している。


「どうだ?」


 エネルが隣で息を切らしながら聞いてくる。


「計画通りだ。地球は確実に公転軌道から外れて加速している。でも……」


 僕はそのまま空を見上げた。赤色巨星と化した太陽の膨張は止まっていない。


「まだ太陽の膨張から逃れるほどには離れていない」


 エネルが苦々しげに唇を噛む。


「じゃあ、どうするんだ?」


「これを繰り返すしかない」


 僕は静かに答えた。 グラヴィスの魔法で地球の質量をほぼゼロにしたとしても、地表と繋がっていない僕たち人間や他の動物たちの重さはそのままだ。エネルの魔法を三秒間放射しただけでは、これだけの質量のものを一気に加速させることはできない。また逆に、重力のない地球をそこまで一気に加速させたら、僕たち全員、宇宙空間に放り出されてしまうだろう。少しずつ加速を重ねるのがフォレスティアのシミュレーション上でも最善の方法だ。


 アリアの魔法の転送先を再び自分に切り替える。太陽の祭壇に手を置き、念話を広げて再び世界中の人々に呼びかける。


『皆さんのご協力のおかげで、計画は成功しました! 先ほどの大きな衝撃を感じたと思いますが、これは地球が太陽から離れ始めた証拠です。そして……』


 念話越しに、世界中の人々が喜びと安堵の声が伝わってきたが、そこで僕は言葉を詰まらせた。次の言葉を発するとどんな反応が返るか、容易に想像できたからだ。


『これから、同じことを何度か繰り返します』


 当然ながら、一斉に湧き上がる疑問の声――


『何回くらいやるの?』


 僕は正直に答えた。


『……100回くらい』


『えぇーーっ!?』


 世界中から完全にシンクロした大ブーイングが届いた。これはまさに、世界中の人々の心が、真に一つになった瞬間だった。

 僕も苦笑する。分かるよ、その気持ち……。正直、一回やるだけでもかなり疲れるんだから。

 だが、疲労の声とともに、『仕方ない、わかった』という応答も聞こえてくる。世界中の人々が、この計画の重要性と困難さを理解し、協力してくれる意志を持っているのが感じ取れる。


 エリナが僕の肩に手を置いた。


「シン、みんなあなたを信じているわ。きっと、大丈夫。乗り越えましょう」


 エネルも大きく伸びをしながら言う。


「百回だろうが二百回だろうが、全員助かるためにはやるしかねえんだろ。死ぬ気になればどうってことはない」


 グラヴィスは黙って頷き、目を閉じ疲労回復に集中し始めた。アリアは疲れた表情を浮かべながらも、笑みを見せた。


「ほな、世界と太陽のかけっこのために、あたしの百倍増幅魔法も出血大サービスや」


 僕たちは二度目のサイクルに取り掛かった。僕が世界中の人々から魔力を集め、アリアが魔法を増幅し、グラヴィスが地球を軽くし、エネルが魔気波で地球を加速させる。

 抵抗のない宇宙空間では、一度加速した物体はその速度を保ち続ける。僕たちがこの工程を繰り返すことで、地球が太陽から遠ざかる速度はどんどん加速していく。

 一度のサイクルが終わるたびに十分程度の休憩を挟み、一時間に四回のペースでこの工程を繰り返し続けた。

 夜になると作業は一時中断する。夜間にルミナス城の真上、つまり太陽の逆方向に魔気波(マギハ)を放つと、逆に太陽に近づけてしまうことになるからだ。ルミナス王国が夜の間は、全員が休息を取る時間に充てる。そして翌朝になると、再び作業を再開する。 

 作業を開始して三日目の夕方、僕たちは空を見上げた。赤い太陽はまだ膨張したまま、巨大な姿を保っている。しかし、以前のような急激な膨張は見られない。もう大丈夫だ。つまり、地球が太陽から離れる速度が、太陽の膨張速度と一致したということだ。

 僕は胸を撫で下ろしながら、念話を通じて世界中の人々に伝える。


『皆さん、もう安心してください。太陽に焼かれる心配はなくなりました。今日の夜は十分に休んでください。そして、明日の朝、最後の力を貸してください。明日は、世界を救うための最終段階です』


 念話を通じて伝わる安堵の感情。だが、明日、最後の大仕事が残っている。フォレスティアの予言によれば、明日の朝、太陽はついに燃え尽きる。

地球の質量や太陽との距離を考慮して、軌道を変えるそれっぽい値を使ってみました。


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― 新着の感想 ―
最後のおお仕事がどれほどのものか。想像もつかないほどに、ここまで大変でしたね。ゼノルスさんがいけなかったんですよね。大混乱なんておまけつけるから、と。いよいよ大詰めでしょうか。今回もとても面白かったで…
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